投資情報ななめ読み

「未知の領域」に踏み出すFRB(NY特急便)

NQNニューヨーク 川上純平

日経新聞より引用

11日の米株式市場でダウ工業株30種平均は前日比105ドル高の3万5281ドルで終えた。今週発表の物価指標は総じてインフレの鈍化傾向を示した。投資家は米経済が景気後退を回避するシナリオに一段と自信を深めている。

米連邦準備理事会(FRB)は他に類を見ない成功を収めている――。リッチモンド連銀は今週に公表した論考で、インフレ抑制に向けてFRBが進める金融引き締め策についてこうした見解を示した。

リッチモンド連銀は昨年からの利上げ局面を過去の金融引き締め時と比較し「米国にとって失業率を大きく上昇させることなくインフレを減速させてきた戦後初めての例になっている」と強調した。7月の米国の失業率は3.5%と利上げ開始時の2022年3月(3.6%)を下回っている。今後もインフレ抑制と失業率の低位安定を両立できる可能性があるとし「我々は未知の領域にいる」と指摘した。米経済が軟着陸に向かっているとの見方を後押しする内容といえる。

11日にミシガン大学が発表した8月の消費者調査によれば、5年後の物価見通しを示す予想インフレ率は2.9%と前月から低下し、3月以来の低水準となった。市場では「消費者はインフレが落ち着きつつあるとの確信を深めている」(ウェルズ・ファーゴのティム・クインラン氏)と受け止められた。11日のダウ平均は軟調に始まったものの、同指標の発表を受けて買い優勢の展開となった。

10日発表の7月の米消費者物価指数(CPI)もエネルギー・食品を除くコアの上昇率が前年同月比で市場予想を下回り、米株の買いを誘った。一連の物価指標を受けてFRBが追加で利上げするとの見方は後退している。ダウ平均の構成銘柄の株価を6月末と比較すると、建機のキャタピラーや航空機のボーイングなど、景気敏感株とされる銘柄が上昇率の上位に多く並ぶ。金融のJPモルガン・チェースの堅調ぶりも目立つ。

米景気の先行き不安は米債券市場でも和らぎつつある。10年債利回りが2年債利回りを下回る「逆イールド」は継続しているものの、その幅は足元で0.7%台と1%を超えていた7月後半に比べて小さくなっている。景気後退の予兆とされる逆イールドの縮小は今後の景気を悲観視する市場関係者が減っているのを示す。ゴールドマン・サックスは7月、米経済が12カ月以内に景気後退に陥る確率を5ポイント引き下げて20%とした。

一方で、景気がさらに底堅さを増せばインフレ抑制に時間がかかり、FRBが高水準の政策金利を維持する可能性が高まる。リッチモンド連銀は論考で「経済が予想以上の回復力を示せば、FRBは(2%の物価)目標の達成を逃さないよう警戒し続ける必要がある」とも言及している。

来週は7月の米小売売上高の発表が予定されている。ウォルマートなど複数の大手小売企業の決算発表も控え、米経済の屋台骨である消費の強弱を占う1週間になる。消費の堅調を示唆する内容が続けば、米経済が景気後退入りするとの懸念はさらに和らぎそうだ。米株相場の先行きを見極める上で気の抜けない日々が続く。

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