10年債利回り9年ぶり水準、急変嫌う日銀を市場見透かす
金融市場で金利上昇と為替相場の円安・ドル高が同時に進行している。日銀は政策修正に踏み切ったものの、急激な金利上昇を容認しない姿勢が示され、緩和政策自体の撤回には当面踏み切らないと市場が見透かしたためだ。政策修正を通じ、円安抑止を狙ったとされる日銀の思惑とは異なる方向に進んでいる。
長期金利の指標となる新発10年物国債利回りは2日、一時0.625%まで上昇(債券価格は下落)し、2014年4月以来、9年4カ月ぶりとなる高水準を付けた。
日銀が7月28日に長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の柔軟化を決めて以降、じりじりと金利は上昇している。
さらに、日銀は8月2日、定例の国債買い入れオペ(公開市場操作)を実施した。オペの中心となる国債の買い入れ額は前回と同額だった。市場では日銀が一定程度の金利上昇を容認した、と受け止められたことも影響した。
一方、外国為替市場で対ドルの円相場は1㌦=143円台前半と、円安・ドル高の傾向が続いている。日銀がYCCの修正を決めた7月28日以降、ほぼ1週間で5円ほど円安・ドル高が進んでいる。
本来、為替市場では金利が高い国の通貨が買われやすい。これまでは長期金利が0.5%以下に抑えられている日本の円に比べ、金利が4%程度の米ドルにお金が流れやすかった。日銀の政策修正で金利が上昇すれば日米の金利差は縮まり、円高・ドル安が進んでもおかしくない状況だ。
金利上昇と円安・ドル高が並走する要因の一つが、日銀は穏やかな金利上昇は容認するものの、急激な動きは許容しない姿勢を示したためだ。
日銀は7月31日、臨時の国債買い入れオペを実施した。YCCの対象となる残存期間「5年超10年以下」の国債を対象に3000億円を買い入れた。当日は10年債利回りが一時前日比0.065%上がるなど、急上昇する場面があった。
日銀の植田和男総裁は7月28日、「根拠のない投機的な債券売りがあまり広がらないよう、コントロールしていく」と市場をけん制していた。
もう一つは日銀の緩和維持のスタンスが変わらないことだ。植田総裁は7月28日、「YCC柔軟化は(金融)政策の正常化へ歩み出すという動きではない」と述べ、YCC修正はあくまで金融緩和を維持するための施策であると強調した。
日銀は最新の経済・物価情勢の展望(展望リポート)で消費者物価指数(生鮮食品を除く=コアCPI)の前年度比上昇率を24年度で1.9%に引き下げ、25年度で1.6%に据え置いた。目標の2%にはとどかず、市場では「マイナス金利の撤廃はまだ先」との見方が強まった。
金利上昇ペースが鈍いと円安傾向が続き、輸入物価高が再加速する恐れも出てくる。第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは「日銀が金利の急上昇を許容しない限り、当面の間円安は進んでいくだろう」とみる。
ただ、今後も円安傾向が続くかは不透明だ。「今後は日銀のインフレ見通しの上方修正とともに、長期金利が1%に向けて上昇していく可能性が高く、円高圧力がかかる」(みずほ証券の山本雅文チーフ為替ストラテジスト)との見方もある。
物価高に目を配りつつ、金利の急上昇をどう回避していくか。日銀に課された課題は大きい。