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米保険株高の警鐘 災害多発で撤退、リスク回避機能低下

日経新聞より引用

自然災害が続発する陰で、米国の損害保険会社の株価が好調だ。足元の保険金支払いは急増する半面、災害の増加で特定の地域から撤退する動きも相次ぎ、採算が改善するとの見方が広がる。保険をかける不動産オーナーや企業などにとっては、災害による損害リスクを回避しにくくなる。市場を揺るがす火種になりかねない。

米連邦準備理事会(FRB)が利上げを始める前の2021年末を起点にすると、米大手損保プログレッシブ株は6割、オールステートも3割、それぞれ上がった。銀行株を束ねた株価指数やS&P500種株価指数を上回る高いパフォーマンスが続く。

地球温暖化を背景に、甚大な被害をもたらす自然災害が続く。

23年夏に南部フロリダ州などを直撃したハリケーン「イダリア」は最大風速で時速200キロメートルを超え、多くの家屋が倒壊した。ハワイ州マウイ島で8月に起きた山火事は観光地ラハイナの大半、約880ヘクタールを焼き尽くした。

災害が増え保険金の払い出しが保険料を上回れば、損保の経営が圧迫される。米信用格付け機関AMベストの集計によると、23年1〜9月期に米損保業界における保険引受損失は322億ドル(約4兆6700億円)と、22年通年の265億ドルを上回った。

もっとも、こうした業績悪化は一時的で、中長期で見ると採算は良くなるとの期待が根強い。

再保険大手スイス・リーの調査機関スイス・リー研究所は23年9月のリポートで「米国の損保事業は好調な24年へ向かう転換点にある」と分析した。同研究所は業界平均の自己資本利益率(ROE)は24年に9.5%と、23年に比べ4.5ポイント向上すると見通す。22年(2.4%)からの改善は鮮明だ。

アナリスト予想によるとオールステートのROEは24年に19.7%。23年推定(マイナス3.5%)から急速に回復する。プログレッシブも同じ傾向となりそうだ。

災害への対応が手に負えず、損保は業務の縮小に走り出した。

大手損保のステートファームとオールステートは23年5月から6月にかけ、西部カリフォルニア州で住宅保険の新規契約を停止すると発表した。災害リスクの高まりなどを理由に挙げた。フロリダ州でもファーマーズインシュアランスやAIGが、保険引き受けを抑制する方針を明らかにしていた。

調査会社フォレスターリサーチのエレン・カーニー氏は「カリフォルニアやフロリダなどの州で24年に事業を縮小する保険会社は10社以上にのぼるだろう」と予測する。

災害が増える中で保険会社が減れば、保険料の上昇につながる。米S&Pグローバル・マーケット・インテリジェンスの集計によると、カリフォルニア州やフロリダ州は住宅保険料が18年〜23年9月の累計で約42%上昇。全米平均の30.7%を上回った。自動車保険料も上がっている。

自然災害は既に、企業の信用力を揺るがす要因になっている。49年が満期のハワイ州政府債の流通価格は23年8月15日、63セントと前週末比で14%下がった。同債券は地元の電力会社ハワイアンエレクトリックによる債務保証が付く。強風下で送電を停止しなかったのが山火事の直接の原因になったとして同社は住民から提訴され、米格付け大手S&Pグローバル・レーティングスは投機的等級に格下げした。

保険事業の撤退や保険料の上昇で、企業などは自然災害リスクを軽減しにくくなる。事業の資本コストが上がったり、資産価値のさらなる毀損を招いたりしかねない。

米大手公的年金、カリフォルニア州教職員退職年金基金(カルスターズ)のクリストファー・エイルマン最高投資責任者(CIO)は「保険料があまりにも高くなりすぎて、特定地域の事業収益や投資機会を大きく損ねている」と警戒する。

投資リサーチ会社デルタテラ・キャピタル創業者、デビット・バート氏は昨年3月の上院公聴会で、山火事リスクの上昇に伴う保険料のさらなる高騰を考慮すると、全米の平均住宅価格が2割下落する可能性があると警告した。昨年9月にはカリフォルニア州の遊園地が保険料上昇で採算が合わなくなったとし、閉園を決めている。

気候変動の影響は国・地域を選ばない。資本市場でまだ顕在化していないが、災害時の頼みの綱である保険機能の低下は、新たな相場変動リスクとしてもっと認識されてもいい。

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