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米地銀、続く引き締め余波 利ざや縮小や不動産融資劣化

日経新聞より引用

米地銀の経営不安が再び経済や金融市場の波乱要因に浮上してきた。米連邦準備理事会(FRB)が早期の利下げに慎重な姿勢を示し、金利の高止まりが預貸利ざやの縮小や商業用不動産向け融資の焦げ付きを通じて地銀の体力を奪う懸念が出ている。金融システムの動揺が広がれば米景気の軟着陸シナリオにも狂いが生じかねない。

2日の米株式市場では、地銀不安の発火点となったニューヨーク・コミュニティ・バンコープ(NYCB)の株価が前日比5%高と反発した。ただ株価急落が始まる前の1月30日終値と比べると、まだ42%も低い水準だ。2023年10〜12月期決算で不良債権処理に備える貸倒引当金が急増し、最終赤字に転落した影響を引きずる。

この1週間は「NYCBショック」が波及し、地銀株で構成するKBW地銀株指数は前週末から7%下落した。ダウ工業株30種平均はこの間に1%強上昇し、地銀株への売り圧力が目立った。

23年春にシリコンバレーバンク(SVB)などの米地銀が相次ぎ破綻し、金利の急上昇が地銀の収益力や財務基盤のもろさを浮き彫りにした。昨夏以降はFRBが政策金利の据え置きを続け、地銀不安は落ち着いていた。だが、24年に入ってからの金利の高止まり懸念やNYCBの損失が市場の懸念を呼び覚ました。

地銀の預金は金利の高いMMF(マネー・マーケット・ファンド)などの金融商品に流れ、昨春の地銀破綻後は大手銀行への預金シフトも進んだ。米中小銀行の預金残高は足元で5.3兆ドルと1年前を約1%下回る。

預金流出を食い止めるために地銀は預金金利を引き上げる必要に迫られ、利ざやには縮小圧力がかかった。NYCBは23年10〜12月期の利ざやが2.82%と前の四半期から0.45ポイントも縮んだ。

融資総額の約4分の1を商業用不動産向けが占めるM&Tバンクも22年10〜12月期をピークに4四半期連続で利ざやが縮小した。23年10〜12月期の平均預金金利は2.01%と前年同期(0.46%)から4倍超になり、収益力が低下している。

大手行より地銀が積極的だった商業用不動産向けの融資が不良債権化するリスクも改めて警戒されている。NYCBは23年10〜12月期の貸倒損失が1.85億ドルと前の四半期の7.7倍、引当金は5.52億ドルと同8.9倍にそれぞれ急増した。いずれもオフィスや集合住宅向けのローンの焦げ付きや損失リスクを踏まえた措置だ。

国際通貨基金(IMF)が1月に公表した分析によると、FRBが22年3月に利上げを始めた後、1年半で米商業用不動産の価格は11%下がった。下落ペースは過去の金融引き締めサイクルで最速という。

分析を担当したアンドレア・デギ氏らは「金利上昇で不動産投資が割高になるほか、経済活動が鈍って不動産需要も細り、価格が下がる」と指摘する。融資の担保の物件価値が低下してローンの返済可能性が下がれば、銀行は焦げ付きに備えて引き当てる必要が生じる。

NYCBは買収による急成長に伴い銀行規制上の区分が変わり、より積極的に引当金を積む必要に迫られるなど、特殊要因で損失が膨らんだとの指摘もある。ただ、商業用不動産価格の大幅下落で今後の不良債権処理コストが膨らむリスクがあるのは他の地銀も同じで、投資家の疑心暗鬼を招いている。

今回の地銀不安はFRBが昨春以降の警戒モードを緩めようとした矢先に起きた。

1月24日にはSVBの破綻直後に創設した銀行向けの融資制度を3月11日で停止すると公表した。この時点では銀行の資金繰り面の不安が薄れていたうえ、同制度が利ざや稼ぎとみられる取引に使われるなど弊害が目立ち始めたためだ。

1月31日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の声明文では、昨年3月の会合から記載を続けていた「米国の銀行システムは健全で強靱(きょうじん)だ」という表現を削除した。わざわざ強調する必要がないほど銀行システムが正常化していることを印象づける意図がにじんだ。

この先、NYCBや他の地銀の経営不安がより深刻になるようなら、FRBは停止予定の融資制度の早期再開や利用条件の変更といった対応を迫られる可能性もある。

今回の地銀不安の再燃は、金融引き締めの効果が時間差で銀行経営に表れることの読みにくさを改めて浮き彫りにした。米景気や雇用の強さを踏まえ、インフレを完全に抑え込むために高金利を維持しようとするFRBの政策運営にも影を落としている。

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