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日銀は「青信号」を待たず 需要不足もうやむやに

日経新聞より引用

日銀が今後の政策修正を見据え、したたかに動いている。22〜23日に開いた金融政策決定会合では、需要と供給力の差を示す「需給ギャップ」や実質賃金など足元でさえない経済指標が、正常化の妨げにならないとのメッセージを強調した。全てが青信号になるのを待たずとも日銀が正常化に踏み切れる自由度が確保されつつある。

「はっきり大きくプラスにいかないと物価目標達成に到達しないかといえば、そういうことはない」。植田和男総裁は23日の記者会見で需給ギャップがマイナスのままでも政策修正の妨げにならないことを示した。

需給ギャップは日本経済の需要と供給力の差を表す指標で、需要超過の状態が続けば物価が上がりやすく、需要不足になれば下がりやすくなるとされている。日銀はこれがプラス(需要超過)に転じ、物価と賃金が持続的に上がる環境を理想として、2%の物価安定目標の実現を目指してきた。

ところが需給ギャップは日銀試算で23年4〜6月期にマイナス0.15%、最新の7〜9月期はマイナス0.37%とぎりぎりゼロ近辺で足踏みを続け、明確なプラス領域には入ってこない。内需は力強さを欠き、人手不足も全体のギャップをプラスに持ち上げるほどの水準にはなっていない。

需給ギャップはもともと推計が難しく誤差が生じやすいこともあり、「かなり幅を持ってみる必要がある指標」(日銀関係者)という扱いだ。それでも市場などでプラス転換しないと政策修正は難しいとみる向きもあり、日銀内では会合前から「需給ギャップに関する文言を修正したほうが良いのでは」とささやかれていた。

蓋を開けてみると、会合後に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では、需給ギャップが「今年度半ばごろ」プラスに転じる、との記述がひっそりと削除されていた。前回10月のリポートで「ゼロ近傍」と評価していた現状認識は、水準に言及せず「改善傾向」と改めた。

日銀は1月の会合では大規模緩和策を維持したが、市場では近くマイナス金利を解除するとの予想が大勢。日銀の表現の変化について、みずほ証券の松尾勇佑氏は「機動的に政策修正に動けるようにするための仕掛けの一つ」と捉えたという。

同じことは賃金にも言える。日銀は今年の春季労使交渉の行方を見極めたいとしているが、大企業を中心に賃上げに前向きな発言が目立つ一方で、中小企業の動向は不透明感が残る。そこで植田総裁は「(中小については)経済全体の平均の賃金の動きにどれくらい影響を与えるかを中心に見る」とハードルを下げた。

毎月勤労統計では、物価を考慮した実質の賃金が23年11月分まで20カ月連続で前年比マイナスから抜け出せていない。実質賃金のマイナスについても植田総裁は「正常化を必ずしも妨げるものではない」との見解だ。

需給ギャップや賃金の判断に共通するのは、先行きの見通しに対する「確度」をより重視しているという点だ。いずれも先行きでプラスになることが見通せれば、2%目標の実現のうえでは障害にならない、という理屈だ。

一方で、従来の説明との整合性を指摘する声もある。需給ギャップが明確なプラスではないということは、日本で需要主導の経済の強さは確認できていないことになる。輸入物価上昇という外的ショックを起点に「賃金と物価の好循環」は本当に実現するのか。そしてその「確度」をどう論理的に説明するのか。定量的な条件を緩めれば日銀の決断の重みも増してくる。

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