投資情報ななめ読み

G20参加国、選挙イヤーが招く財政拡張 インフレ再燃も

日経新聞より引用

20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が米ワシントンで現地時間の18日(日本時間19日)、閉幕した。今年は米国やインドなどG20の半数近くで選挙が実施され、大衆迎合的な経済政策が実行されやすい地合いにある。国際通貨基金(IMF)は財政赤字の拡大に警鐘を鳴らしており、インフレの再燃が経済の下振れ要因になるリスクも高まっている。

「残念なことに、各国の財政健全化の計画は不十分だ。2024年に記録的な数の国政選挙が実施されることを考慮すると、さらに計画がずれ込む可能性がある」。IMFのチーフエコノミスト、ピエール・オリビエ・グランシャ氏は16日、主要国で相次ぐ選挙が財政再建のペースを鈍らせるリスクに警鐘を鳴らした。IMFは17日公表の「財政モニター」でも、選挙によって加速する財政拡張が「特に過熱した経済でインフレ圧力に拍車をかける可能性がある」と指摘した。

24年は約60の国と地域で国家レベルの選挙が実施される。G20参加国でも既に実施済みのインドネシア、ロシア、韓国、今後予定される米国や欧州連合(EU)、インドなど少なくとも8つの国・地域で大統領選挙や総選挙がある。

中でも最大の焦点は11月の米大統領選だ。共和党の候補指名が確定したトランプ前大統領は再び公約に企業向けの減税を掲げる。トランプ氏が前回大統領だった時期の2017〜20年、米国の財政赤字の合計額は約5兆6千億ドル(約860兆円)と、その前の4年間の2.5倍に達した。

再選を狙うバイデン大統領も2025会計年度(24年10月〜25年9月)の予算教書で歳出総額を24年度比で4.7%増やす案を打ち出した。25年度の財政赤字は約1兆7800億ドルに達する見込みで、コロナ前の19年の1.8倍の高水準だ。バイデン氏の任期中も、米国の財政赤字は高止まりが続き、国内総生産(GDP)比の債務残高は第2次世界大戦期を超える水準にまでなっている。大統領選の勝利のために支持者獲得に必死の両者のどちらが当選しても、財政赤字の悪化に歯止めがかからない懸念が残る。

英国では25年1月までに実施する次期総選挙を控え、支持率低迷にあえぐスナク政権が負担軽減策を相次ぎ打ち出している。1月に12%から10%に引き下げたばかりの労働者の国民保険料率を4月に8%に下げた。児童手当の給付世帯の拡大なども進める。

財源の裏付けのない大規模減税の表明で金融市場を混乱させた22年のトラス前政権の反省もあり、一定の財政規律は保っている。ただ、GDP比の政府債務は100%ほどに達し、戦中・戦後を除けば英国としては歴史的に高い水準にある。英シンクタンク財政研究所のポール・ジョンソン所長は「GDP比の債務に低下の兆しはない」と指摘する。国債の利払い増加と経済の低成長によって「(総選挙後に開く)次期国会は財務相にとって過去80年で最も難しいものになるだろう」と予想する。

6月に欧州議会選挙を控える欧州連合(EU)でもポピュリスト政党の勢力が拡大する公算が大きい。右派ポピュリスト政党が政権を担うハンガリーでは22年の議会選挙前に所得税の還付や年金受給者向けの一時金給付で歳出を拡大した。フィナンシャル・タイムズ(FT)によると、22年秋に右派ポピュリスト政権が誕生したイタリアでは「スーパーボーナス」と呼ぶ大規模な税額控除措置によってGDP比の債務が膨らんでいる。規律の低い財政運営がEU加盟国の間に広がっていけば、政府の信認低下を要因とした通貨安やインフレが進む可能性がある。

こうした構図は新興国も同様だ。19日から総選挙の投票が始まったインドでは、政府が2月に発表した2024年度(24年4月〜25年3月)の暫定予算案で歳出が23年度比で6%増えた。インフラ整備が中心となる資本支出は11%増で、総選挙を意識して国土開発を重視した。

モディ首相が率いる与党のインド人民党(BJP)が4月に入って発表した選挙公約には、高速鉄道網など輸送インフラの拡充や貧困層に対する電力の無料化などを盛り込んだ。財源などの詳細には踏み込んでおらず、予算案で掲げた財政規律の方針との整合性が課題となる。

24年のG20議長国のブラジルは前政権下の22年にプライマリーバランス(基礎的財政収支)を黒字化させたが、貧困層への現金給付など「バラマキ政策」を掲げたルラ大統領が政権に復帰した23年に再び赤字に陥った。

G20各国は新型コロナウイルス下の20年、21年に経済を下支えするため、積極的な財政政策に打って出た。22年以降はコロナ対策が一巡し、財政健全化の取り組みが本格化するはずだったが、そうした動きは鈍いままだ。IMFは選挙年は財政赤字が事前の予想よりGDP比で0.4ポイント大きくなると指摘するほか、GDP比の基礎的財政収支をコロナ前の19年の水準に戻すには多くの国で追加の財政改善の努力が必要になると分析する。選挙で勝利した候補者や政党が公約を実現するため、拡張的な財政政策を推進すれば、改善は逆に遅れることになる。

米国では連邦準備理事会(FRB)の想定以上にインフレが続いているほか、新興国ではドル高が輸入価格の上昇を通じてインフレを加速する懸念が出ている。財政健全化の機運の後退は物価上昇の継続につながり、中央銀行のインフレ抑制の努力に水を差すことにもなりかねない。

独経済学者のマヌエル・フンケ氏らは過去の多数のポピュリスト政権の実績を分析し、政権発足後15年後の1人あたりGDPがポピュリストが政権を取らなかった場合と比べ10%あまり低くなる可能性があると試算した。債務の増大やインフレの進展が経済成長を鈍化させるという。

オタワ大のマイケル・ギャヴィン氏らも、ポピュリズムの度合いが高い政権が誕生した国では中銀による利下げなどが起きやすくなり「1年半後に0.5%分のインフレ率の上昇を引き起こす」と分析する。

大衆迎合的な政権は自国の利益追求が最優先で、国際協調への関心が低い場合が少なくない。国際協調の機能不全ぶりが目立つG20だが、参加国が内向き志向を強めれば、一段と遠心力が働くことになる。

(ワシントン=新井惇太郎、ロンドン=江渕智弘、ムンバイ=花田亮輔)

短期トレード向きの「DMM FX」

-投資情報ななめ読み