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植田日銀、YCC修正「10月までに」専門家8割が予想

日経新聞より引用

「持続的、安定的な2%のインフレ達成にはまだ距離がある」。18日、インドで閉幕した20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議。日銀の植田和男総裁は記者会見で語り、当面の金融緩和の継続を匂わせた。

4月に日銀総裁に就いた植田氏。4、6月の金融政策決定会合で現行の長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を維持し、「就任早々に政策修正に踏み切るのではないか」と予想していた大半の市場参加者は肩すかしを食らった。

にもかかわらず日銀が近く政策修正に動くとの思惑が再燃している。7月27〜28日の会合で日銀が示す2023年度の物価見通しが上振れする可能性が高いうえ、内田真一副総裁がインタビューでYCCに懸念を示したと受け取られたのがきっかけだ。

債券市場では長期金利の指標の10年物国債利回りが約4カ月ぶりに日銀が上限とする0.50%近辺に上昇(債券価格は下落)。海外勢にも「基調的なインフレ率の上昇から政策を小幅に修正する」(S&Pグローバル・レーティングス)との見方がある。

7月修正予想は半数

植田日銀はいつ動くのか。日経ヴェリタスがエコノミスト10人にアンケートしたところ「10月までにYCCを修正する」との回答が8割にのぼった。7月会合との予想も半数だった。

政策修正を見込む理由のカギは植田氏も示唆した「金融緩和の継続」だ。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは「日銀が緩和を継続する上で現行のYCCの副作用は無視できない」と指摘する。

米欧の利上げに伴う国内金利の上昇圧力から、長期金利は昨年来、日銀が上限としていた0.25%を試すようになった。日銀は大量の国債購入を強いられ、市場に迫られるように昨年12月、変動幅を「プラスマイナス0.50%程度」に広げた。

当時の黒田東彦総裁は「利上げではない」としたが、海外勢を中心に国債売りは止まらなかった。23年1月の国債購入額は23兆円超と過去最大に。大規模買い入れにより10年債の一部銘柄で発行額に対する日銀の保有残高が100%を超える極めて異例の事態も発生した。

YCCでは金利上昇の抑制策を発するたびに国債購入額の膨張、債券市場の流動性低下といった副作用が生じるのは避けられない。特に10年債利回りが年限の短い8年債や9年債と比べて低くなる「ゆがみ」は、国債利回りを参考に価格や利回りを決める社債や地方債を発行しにくくするという実体経済への悪影響を招いた点で深刻だった。

金融緩和の持続性を高めるために日銀は平時に長期金利の変動許容幅拡大や操作対象の国債の年限短期化といったYCC修正に動き、ゆがみの再発を防ぐ――。市場はこう予想している。

日銀がつかの間の「フリーハンド」を得たことも政策修正への思惑を後押しする。6月の通常国会閉会にあわせた衆院解散・総選挙が取り沙汰される中では「政府・与党への配慮から修正はしにくかった」(ある元日銀理事)。岸田文雄首相が衆院解散に踏み切る次のタイミングは今秋以降とみられ、日銀が気兼ねする必要が減った。

正常化も探る

日銀がYCC修正を「緩和縮小ではない」と説明しても、株式をはじめ市場の波乱の芽になり得る。「日本がようやく引き締めに入ったと捉える参加者も出る」(UBS証券の足立正道チーフエコノミスト)からだ。

物価と賃金の上昇が続くなら、正常化であるマイナス金利の解除が視野に入る。4月会合で決めた25年間の金融政策を検証する「政策レビュー」はその布石だとの見方が強い。

「金融政策の効果が出るまでには少なくとも25年かかる」。6月下旬、ポルトガルでの国際金融フォーラム。植田氏は25年前の日銀審議委員の経験を踏まえてジョークを飛ばし、笑いと拍手に包まれた。

悠長な姿勢は日本経済にとって冗談では済まない。世界の経済情勢が激変するなか、機動的な政策運営は植田氏がめざす姿のはずだ。どのような修正が予想されているか見ていこう。

緩和継続に向け政策修正、長期金利変動幅を拡大か

植田日銀はいつ動くのか――。日経ヴェリタスが10人の著名エコノミストにアンケートしたところ、27〜28日に開く金融政策決定会合で長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の修正に踏み切るとの見方が半数にのぼった。年内までを含めると大半が早期の政策修正を見込んだ。

日銀は黒田東彦前総裁の下で2016年9月にYCCを導入し、10年物国債利回りの抑え込みを通じて利回り曲線(イールドカーブ)全体の押し下げに成功してきた。一方、金利上昇(債券価格の下落)局面では大量の国債購入を余儀なくされたほか、10年債利回りをより残存年限が短い国債の利回りが上回る「逆イールド」が発生し、債券市場のゆがみが問題となった。

YCC修正はこうした「副作用」を軽減し「金融緩和の持続性を高めるため」(モルガン・スタンレーMUFG証券の山口毅チーフエコノミスト)に実施するとの見方が大勢だ。利上げにつながる正常化は遠いと植田和男総裁が説明すれば「YCC修正を経ても金融市場は安定する」(SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミスト)可能性が高いという。

YCC修正の手法、割れる見解

YCC修正の手法(複数回答)は見解が割れた。現在プラスマイナス0.50%程度としている長期金利の変動許容幅を「1.00%程度に拡大する」が4人だった。

UBS証券の足立正道チーフエコノミストは「2%の物価安定目標の達成に至らないまでもインフレ基調の上昇が確認でき、債券市場への副作用低減が適当と判断される」と見込む。伊藤忠総研の武田淳社長・チーフエコノミストは「秋ごろに長期金利が上限に張り付く」として9月会合での「0.75%程度への拡大」を挙げた。

「操作対象の利回りを10年債から短期化する」としたのは、野村証券の森田京平チーフエコノミストだ。12月までの政策修正を予想する森田氏は「年限を短縮して変動幅の設定をやめれば、YCCの形態を維持したままより持続性を高められる」として、5年債もしくは2年債利回りへの短期化を見込む。操作対象の短期化は植田氏が総裁就任前の国会の所信聴取で「ひとつのオプション」と語っていた手法でもある。

SMBC日興証券の丸山氏は「7月のYCC撤廃もあり得る」とした。イールドカーブのゆがみは現在ほぼ解消しているものの「YCCは利上げの織り込みに障害となる」と指摘する。YCCを維持したまま利上げに踏み切ると金融市場に変動が生じるリスクが大きいため、撤廃すべきだとの意見だ。YCC撤廃と同時に金融政策のフォワードガイダンス(先行き指針)に「長期金利の安定のための国債買い入れ」を明記し、緩和継続の姿勢を明確にすると予想する。

長期金利の誘導目標を引き上げるとの見方を示すのは、大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストだ。「10月ごろに目標水準を現在の0%程度から0.25%程度に引き上げ、変動許容幅をマイナス0.25〜プラス0.75%とする」とみる。

年度内にさらなる修正は

「当面、政策修正はない」とみるのがみずほ証券の小林俊介チーフエコノミスト、東短リサーチの加藤出社長の2人だ。日銀は昨年来、2%の物価目標達成には3%程度の賃金上昇率が必要との見解を示す。「3%の賃金インフレ実現はまだ遠い」(小林氏)、「日銀が24年度以降の物価上昇率2%維持にまだ確信を持てていない」(加藤氏)と目標とする物価上昇に至らないというのが大きな理由だ。

早期の政策修正を見込んだ場合でも、年度内のさらなる修正を予想する声は限定的だ。モルガン・スタンレーの山口氏は「ベースケースではない」としつつ「物価・賃金上昇が上振れするなら、次は短期金利の目標を現在のマイナス0.1%から『ゼロ%』にする可能性もある」とみる。

第一生命経済研究所の藤代宏一主席エコノミストも「ゼロ金利であれば『引き締めではない』との説明が可能ではないか」と指摘する。
物価目標の達成がみえないため金融緩和は継続されると見込むが、副作用軽減や将来の利上げのためにYCCを柔軟化すべきだ――。これが市場の見方の大勢を占めるといえる。
ただし「過度なビハインド・ザ・カーブ(後手に回る)は大きな混乱をもたらす恐れがある」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)との懸念も強い。
植田氏は「引き締めが遅れるリスクよりも拙速な引き締めで物価目標を実現できなくなるリスクの方が大きい」と話すものの、欧米の中央銀行の引き締めの遅れが高インフレを招いたとの批判は大きい。現行の緩和策に固執するのではなく「バランスの取れた政策運営」(河野氏)が日銀には求められる。 

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