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景況感改善、賃上げ期待 円安が製造業の業績押し上げ

非製造業も訪日客増、日銀短観 先行きは中国経済に懸念

日経新聞より引用

企業の景況感の改善が続いている。日銀が2日発表した9月の全国企業短期経済観測調査(短観)では、供給制約が解けて円安効果が強く出ている大企業製造業だけでなく訪日客増などで非製造業も改善した。先行きは中国の景気リスクなど不透明さがあるが、円安で業績を押し上げられた企業が賃上げに前向きになれば物価と賃金上昇の好循環の芽になる。

9月短観では大企業製造業の景況感を示す業況判断指数(DI)がプラス9と前回6月調査から4ポイント改善した。とくに改善幅が大きかったのが自動車だ。国内乗用車メーカー8社の8月の世界生産は前年同月比0.7%増の202万台でトヨタ自動車は過去最高を更新した。SUBARU(スバル)やダイハツ工業、スズキの3社も前年同月を上回った。

車載半導体などの部品不足が緩和し生産が戻ったためで、これに円安による業績押し上げ効果が加わる。トヨタは対ドルでの1円の円安が約450億円、営業利益を押し上げる。現在の円安水準が続けば、日本企業で初の3兆円を見込んでいる2024年3月期の営業利益はさらに上振れすることになる。

足元の円相場は1ドル=150円に迫る水準まで下落しているものの、今回の短観で各社が事業計画の前提にしている想定レートは全規模・全産業で1ドル=135円88銭だった。円換算時の業績の上振れ余地は大きい。

円安は新型コロナウイルス禍から回復したインバウンド(訪日外国人)の呼び水にもなっている。大企業非製造業の業況判断DIは6月調査から4ポイント改善し、プラス27と1991年11月調査以来の高水準となった。改善は6期連続だ。

帝国ホテルは「(円安で)割安感があり、訪日のきっかけになっている」(担当者)とみる。サービス維持には従業員の処遇改善が欠かせず、賃上げなどに伴うコスト上昇分は宿泊料金に転嫁すると強気の姿勢だ。

百貨店でも高額品の購入が増えている。日本百貨店協会によると、8月の全国百貨店売上高は前年同月比11.8%増と18カ月連続のプラスとなった。三越伊勢丹ホールディングスは24年3月期の連結営業利益は過去最高を見込む。

大和総研の試算によると、23年1月時点の円相場(1ドル=130円50銭)から10%円安が進むと、実質国内総生産(GDP)を0.1%押し上げる効果があるという。輸入価格上昇によるコスト高は業績の下押し要因になるが、輸出や訪日客の増加といったプラス要因が上回るためだ。

10%の円安で製造業の経常利益は5%弱、非製造業も1%程度押し上げられるとも試算する。

円安は足元で企業業績の押し上げに先行して効いているが、先行きは輸入物価の上昇を通じたコスト高として意識されている。特に懸念されるのが非製造業だ。訪日客増の恩恵を受けてきた宿泊・飲食も先行きは3ポイントの悪化を見込んでいる。

実際、仕入れ価格の上昇を販売価格に転嫁する動きは鈍ってきている。大企業非製造業の販売価格判断DIと仕入れ価格判断DIの差は22年9月(26)から3期連続で縮小してきたが、今回は16で横ばいだった。開きが小さければ小さいほど価格転嫁が進んだことを意味するが、値上げ余地が少なくなっている可能性がある。

食品スーパー業界からは「人件費やエネルギー価格は今後も上昇する見込みで、不透明な状況は変わらない」との声があがる。先行きの景況感の悪化予想は物価高による家計の消費低迷を懸念しているためだ。低迷する中国経済も影を落とす。

23年の大手企業の定期昇給とベースアップ(ベア)を合わせた賃上げ率は3.99%で約30年ぶりの高水準だった。トヨタの佐藤恒治社長は「自動車産業全体への分配を促す先頭に立つ」と述べ、継続的な賃上げに意欲を示している。

コロナ後の需要回復で人手不足感が強まっており、「コストアップ要因が増える中でも、賃上げはやっていかないといけない」(首都圏のある食品スーパー大手)という声も多い。

日銀は物価と賃金上昇の好循環を目指している。大企業が円安で増した余力を賃上げに振り向ければ、コスト高を吸収して持続的・安定的に2%の物価目標を達成できる可能性は高まる。次回12月の短観でも堅調な景況感を保っていれば、マイナス金利政策の解除を含む金融緩和の出口に近づくことになる。

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