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日銀注視「基本給3%増」の確度 追加利上げ7〜10月か

日経新聞より引用

春季労使交渉での回答で出た高い賃金引き上げ率が、実際に中小企業も含めて幅広く実現するのかを注視していく――。日銀は25〜26日開く金融政策決定会合でこの姿勢を確認する。賃上げの状況は追加的利上げの時期を見極める際の重要な要素になる。

3月の日銀によるマイナス金利解除決定を確定的にしたのは、連合による春季労使交渉の第1回回答集計(3月15日公表)だった。全体の賃上げ率が5%を超えた点が世間を驚かせたが、日銀にとってより重みを持ったのは、定期昇給分を除いたベースアップ(ベア)の数値。全体で3.70%、「中小企業」でも2.98%とほぼ3%に達したのだ(ベアと定期昇給を明確に区別できる組合を対象にした調査)。似たような状況は第2回以降の集計でも続いている。

日銀が重視する「物価2%と整合的なベア3%」

ベアは基本給自体の底上げを意味する。その3%の伸びが重要なのは、日銀が目指す2%の物価上昇率と整合的だからだ。どういうことか。

2022年の講演で黒田東彦前日銀総裁が語った内容を紹介しよう。「やや長い目でみると、日本の時間当たり労働生産性は、平均して年率1%程度のペースで上昇している。また日銀が目指している消費者物価の上昇率は2%だ。従って、生産性と物価の上昇率と整合的で持続可能な名目賃金の上昇率は3%程度になる」

ここで「持続可能な名目賃金の上昇率は3%程度」と語った部分がベアの3%にほぼ相当する。それは労働生産性の伸び率と物価の上昇率を足したものと黒田氏は説明しているのだ。この考え方は今の日銀にも受け継がれている。

労働生産性の上昇率は長い目で見たトレンドで1%と日銀は理解しており、そのぶん賃金も上がらないとおかしい。一方、2%の物価上昇率が持続的・安定的に実現するなら、製品の販売価格も同じ程度上がっても不思議はなく、それも賃金に反映されるべきだ。とすれば1%の生産性上昇率に2%の物価上昇率を上乗せした3%のベアが、2%の物価上昇率が持続するためのあるべき姿と日銀は考える。

上述した通り、連合の回答集計ではベアが既に3%になった。今後日銀は、これが集計対象でなかった多くの企業を含めて幅広く実現するかを確認する局面に入るのだ。

毎勤統計、5月分以降が重要性増す

その際の重要データのひとつは、厚生労働省公表の毎月勤労統計(毎勤統計)の「一般労働者の所定内給与(共通事業所ベース)」である。正社員の基本給を中心に反映する数値で、今は前年比2%程度の伸びで推移している。これが3%に向けて上がり、2%物価目標の持続的・安定的実現の可能性がさらに高まるなら、追加利上げの根拠になり得る。

もっとも、3%にならなければ追加利上げがないというわけでは必ずしもない。金融政策の効果波及には時間がかかるので日銀は先手を打って動くからだ。カギを握るのは3%になる「確度」が高まったかの判断になる。

ここで知っておくべきことがある。4月分の毎勤統計を見れば新年度の賃上げ状況が分かるかといえば、そうではない点だ。賃金改定を4月にすぐにやる企業の比率は高くないと指摘されるからだ。一概にはいえないが、比率は5月にほぼ6割台になり、7月には8割を超えるようだ。毎勤統計の確認作業の重要性は、5月から夏にかけて増す流れになるのだ。

サービス価格の動向チェック

5月以降の毎勤統計(速報値)の発表と日銀金融政策決定会合の日程は表の通り、7月決定会合開催時には5月の毎勤統計の内容が判明しており、9月の会合開催時には6〜7月の統計内容もわかっている。10月の会合開催時には8月の統計も判明している。追加利上げの時期として、7、9、10月が取り沙汰されるゆえんだ。

もちろん日銀は賃金だけを見て追加利上げを決めるわけではない。賃上げをした企業が販売価格に転嫁し、それを受けさらに賃上げが進むという「賃金と物価の好循環」が物価2%の持続的・安定的実現のカギを最終的に握るので、サービス価格を中心とした物価情勢を注視する。ただし、好循環の前提は高い賃上げ率であり、「基本給3%増」の実現の確度が高まるかは重みを持つ。

[日経ヴェリタス 2024年4月21日号掲載]

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