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円安・株高にブレーキも 金利操作修正、均衡点探る市場

日経新聞より引用

金融市場で円安と株高にブレーキがかかりそうだ。日銀が28日、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)の運用を柔軟にし、長期金利が上昇(債券価格は下落)したためだ。人為的に抑えられてきた金利が比較的自由に動くようになり、市場は新たな均衡点を探ることになる。

日銀は10年物国債を無制限に毎営業日購入する「連続指し値オペ」の利回りを0.5%から1%に引き上げた。長期金利の上限を事実上0.5%から1%に引き上げる措置となり、長期金利は28日に一時0.575%と9年ぶりの水準まで上昇した。

日銀の国債買い入れの影響を受けにくい翌日物金利スワップ(OIS)市場をみると、10年物は0.6%台後半まで上昇した。市場は現時点ではこの水準までの金利上昇を織り込んでいることを意味する。

日本の成長率が米国などと比べて低いことや、日銀の植田和男総裁が投機色の強い金利上昇は容認しない姿勢を示したことなどから、OIS金利の急上昇には歯止めがかかっている。それでも投資家が従来の日銀上限よりも高い金利水準で10年物国債などを取引しているのは事実で、日銀のYCC柔軟化で金利には上昇圧力がかかる。

金利上昇の影響を受けたのが、為替や株式相場だ。

外国為替市場では、対ドルの円相場が日銀のYCC柔軟化が伝わる前は1ドル=141円前後だった。日銀がYCC柔軟化を発表した日本時間の28日午後には一時138円台前半まで円高が進んだ。

為替市場では金利が高い国の通貨が買われやすいという特徴があり、これまでは長期金利が0.5%以下に抑えられている日本の円に比べ、金利が4%程度の米ドルにお金が流れやすかった。

ただ、米国ではインフレがピークアウトし、6月の消費者物価指数(CPI)上昇率は前年同月比で3%まで低下した。米連邦準備理事会(FRB)が年内の追加利上げを見送り、米長期金利が大幅に上昇する可能性は低いとみている市場関係者は多い。そこにYCC修正による日本の金利上昇が重なる。日米金利差が縮まりやすくなっている局面といえる。

日銀の植田総裁は記者会見で物価の上振れなどへ警戒を示しており「想定よりも金融引き締めに積極的と映った」(りそなホールディングスの石田武為替ストラテジスト)。円は28日のニューヨーク市場では再び141円台まで下落したものの、昨年のように1ドル=150円を超えて円安が進むような展開は想定しにくくなった。

株式市場も低金利・円安環境の変質に身構えている。28日の日銀のYCC修正発表後、日経平均株価は前日比で一時850円あまり下げた。金利の上昇が進めば企業の利払い負担を増やすほか、将来の予想利益を現在価値に引き直す際の割引率の高まりを通じて株価を圧迫する。政策修正の背景にある脱デフレの流れはプラス要素だが、投資家は株高の支えが崩れないか見極めようとしている。

みずほリサーチ&テクノロジーズの分析では、長期金利が0.5%上がると金利収支のマイナス影響が日本企業の経常利益を2.4%下押しする。有利子負債が大きい運輸・郵便業や不動産業では4〜5%程度の悪化が見込まれている。

金利が上がれば、理論株価を求める際の割引率の上昇で株の相対的な割高感を意識させる影響も出る。ニッセイ基礎研究所の井出真吾チーフ株式ストラテジストの試算によると、長期金利が1.0%に上がれば、利益水準などが変わらない前提で日経平均のPER(株価収益率)で1倍程度の押し下げに働く。値幅では2000円超の調整圧力になりうる。

輸出企業の円安による業績上振れ期待がはがれ落ちる恐れもある。井出氏は「円高・ドル安が進めば日経平均は3万円を割り込む可能性もある。今回の日銀の政策修正は株式市場にとってポジティブな面はあまりない」と話す。

一方、「物価高・賃金上昇は過去になかった日本経済のプラス要素で、緩和策修正だけで海外投資家の日本株買いは終わらない」(岡三証券の松本史雄チーフストラテジスト)との声もある。28日は欧米市場での円高一服を手掛かりに、日経平均先物が夜間取引で3万3000円台を回復した。

長期金利の上限を0.25%から0.5%に引き上げた昨年12月20日のYCC修正との違いも意識されている。23年の年明け早々に長期金利は新たな上限の0.5%に到達し、円相場も1ドル=127円台と、修正前と比べると10円も円高・ドル安が進む場面があった。

昨年12月の日本のCPI(生鮮食品除く)上昇率は4%と、当時として41年ぶりの高さを記録した。物価高圧力が強く、日銀はYCCの撤廃を迫られるとの見方が浮上し、相場の急変動につながった。その時と比べると、足元のCPIは3%台前半まで下がり、市場でYCC撤廃まで織り込む動きは乏しい。

ある外資系証券の債券トレーダーは「長期金利が突然1%まではある程度自由に動くような環境になり、投資家も適正な金利水準がどこか把握しかねている」と市場の雰囲気を解説する。週明けの市場では新たな相場の居所を探るように、じりじりと金利の上昇などが進む可能性がある。

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