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「マイナス金利解除は24年前半」予想5割 為替円高へ

日経新聞より引用

2024年の日銀の金融政策や対ドルで円相場の行方はどうなるか。日経ヴェリタスが実施した市場関係者へのアンケートでは、日銀が年前半にもマイナス金利解除に踏み切るとの回答が最も多かった。米国は利下げ、日本は金融正常化により金利差が縮小することで、対ドルで円には上昇圧力がかかりやすいとの見方が多かった。

「低インフレ環境を脱し、物価安定目標が実現していく確度は少しずつ高まってきている」。日銀の植田和男総裁は12月25日、経団連で講演した。近い将来の金融政策の修正を示唆する内容だが、金融市場で材料視する動きは限られた。

市場ではすでに、2024年中の短期金利の引き上げが確実視されている。日銀の政策修正の「次の一手」の予想は「長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を撤廃しマイナス金利を解除」が55%でトップで、4〜6月の実施が57%、1〜3月が23%だった。

オフィスFUKAYAコンサルティングの深谷幸司代表は1月の金融政策決定会合での変更を予想する。「賃上げの状況もおおむね見えてきており、デフレでないなら『普通の緩和』に移行すべきだ」。

「YCCを維持してマイナス金利を解除」も次点の36%。みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「長期金利の急上昇を抑えるために一定の制限を残す可能性はある」とみる。ただし「YCCを形式上撤廃しても、日銀が保有する国債は5割を超えており国債市場を事実上コントロールしている状況は変わらない」。

日銀が24年中に短期金利を0%からさらに引き上げるとの見方も4割にのぼる。ケイ・アセットの平野憲一代表は「物価と賃金の好循環が実現し、年央には政府が『デフレ脱却宣言』を出す」との見方。「それに伴い金融政策も正常化され、年末にかけて短期金利を0.5%程度まで引き上げるのではないか」と予想する。

ただし日銀が引き締め方向の金融政策正常化を進められるかどうかは米連邦準備理事会(FRB)の金融政策を含む世界経済の動向にも左右される。クレディ・アグリコル証券の会田卓司チーフエコノミストはYCC撤廃や金融引き締めは25年にずれ込むとの見方だ。「グローバルに景気が減速し市場がFRBの利下げを織り込むなか、円高による輸出の鈍化と内需を抑制しかねない金融引き締めに踏み切るのは常識的には考えにくい」と分析する。

23年4月に就任した植田氏の評価も聞いた。「大いに評価する」(21%)、「やや評価する」(61%)を合計すると8割超が植田氏の仕事ぶりを前向きにとらえた。「どちらともいえない」は13%、「あまり評価しない」は5%。「まったく評価しない」はゼロだった。市場とのコミュニケーションを評価する声が目立った。

伊藤忠総研の武田淳社長兼チーフエコノミストは「会見で質問に丁寧に回答し、政策運営の透明性が高まった」とする。丸紅経済研究所の今村卓所長も「金融市場はもちろん、国会、経済界、社会に分かりやすく説明を尽くしている」と評価した。

為替、年後半にかけ円高へ

2024年の為替相場見通しでは、ゆるやかな円高・ドル安が進むとの予想が目立った。米国の利下げ転換のほか、米大統領選をめぐる不透明感がドル売り要因になるとの見方がある。

高値予想では、市場関係者の4割が「1ドル=130〜135円未満」と答え、最多だった。高値の平均は1ドル=131.6円、安値の平均が149.4円だった。円相場は11月に1ドル=151円台後半をつけた後、やや円高に持ち直した。高値が「130円未満」との回答も28%あり、円高方向の予想が比較的目立つ結果になった。

「日米の金融政策の方向感の違いが出始める」(富国生命保険の野崎誠一有価証券部長)ことをあげる声が多い。アセットマネジメントOneの清水毅調査グループ長は「米国は利下げ、日本は金融政策正常化を進めるため、年を通じて円高圧力がかかりやすい」と指摘する。

安値の時期の予想は1月が49%、高値をつける時期は12月(57%)が最多だった。「年後半に向けて円高進行」が市場のコンセンサスと言えそうだ。

米大統領選も為替の変動要因になりそうだ。みずほ証券の上野泰也チーフマーケットエコノミストは「米大統領選でトランプ氏が返り咲きとなった後のリスクオフ」を理由として、12月に1ドル=130円までの円高を予想する。

「円相場は年後半(7〜12月)に24年の安値をつける」との予想も2割あった。BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「日銀は金融引き締めを進めるがインフレ期待の上昇に利上げが追いつかず、実質金利の低下が円安要因になる」と予想。12月に再び1ドル=150円まで円安が進むとみる。「米国の利下げは市場が織り込むほどハイペースで進まない」(外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長)との見方もあった。

岸田首相「秋に退陣」予想が48%

日本の政治の先行きに注目が集まっている。2023年12月に政治資金問題をきっかけに主要閣僚が次々に辞職し、政権運営への不信感が高まった。アンケートの回答者の半分近くが24年中にも岸田文雄首相が退陣するとみており、相場への影響を注視する必要がありそうだ。

予想される国内政局について聞いたところ、「岸田首相が秋の自民党総裁選で敗北し、退陣する」との回答が48%にものぼった。日本経済新聞社とテレビ東京が23年12月中旬に実施した調査で岸田内閣の支持率は26%と、「危険水域」とされる水準まで落ち込んでいる。

背景にあるのは「政治とカネ」をめぐる不信感だ。自民党内の最大派閥である安倍派(清和政策研究会)で政治資金問題が明らかになった。12月には経済産業相を担っていた西村康稔氏ら主要な閣僚が相次いで辞職する事態となり、岸田内閣は厳しい批判にさらされている。

少数ながら市場関係者からは「『政治とカネ』問題の顕在化により24年初に岸田首相が退陣し、新総裁下で衆院解散を先延ばしにする」(インベストメントLabの宇根尚秀代表)との予想もあった。

もっとも、内閣の退陣があったとしても株式市場へのマイナス影響は限定的との見方が多い。「岸田首相が秋の党総裁選で敗北し、退陣する」と予想した回答者(30人)に株価への影響を聞いたところ、半数にあたる15人が「株価は上昇する」、43%にあたる13人が「株価に影響なし」と答えた。

経験則では選挙があった場合に日本株は上昇しやすい。1979年以降の衆議院選挙において、投票日の20営業日前から投票日までの東証株価指数(TOPIX)は15回中14回で上昇した(三菱UFJモルガン・スタンレー証券調べ)。大統領選を控える米国市場とあわせ、選挙のタイミングでの相場変動には注目が必要となりそうだ。

期待する現政権の掲げる政策を聞いたところ、5割近くが「賃上げ促進・半導体投資などへの税制優遇」と回答した。米中関係や台湾をめぐる情勢に緊張感が増すなか、「経済安全保障面から半導体産業の強化が焦眉の急」(三菱UFJアセットマネジメントの石金淳チーフファンドマネジャー)との指摘がある。政策の後押しを受けて、市場で半導体関連株への注目が増す可能性もある。

(学頭貴子、小池颯が担当した。グラフィックスは田口寿一)

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