【シリコンバレー=白石武志】10日に経営破綻した米シリコンバレーバンク(SVB)を巡り、顧客の資金回収への懸念が広がっている。管財人の米連邦預金保険公社(FDIC)によると、22年末の預金残高約1750億ドルのうち89%に当たる約1560億ドル(約21兆円)は預金保護の対象外だった。
米国では金融機関が加盟するFDICが1口座あたり25万ドルを上限に保護する仕組みがある。SVBの本店と全支店は週明けの13日に営業を再開し、遅くとも同日午前には保護対象の預金の引き出しに応じる。
保護対象外の預金については未定だ。米ブルームバーグ通信は11日、関係者の話として、FDICが早ければ13日にもSVBの資産売却によって得られた資金から、保護上限を超えた分の預金を顧客に支払い始める見通しだと報じた。資産の現金化に向けて週末も動いており、保護対象外の預金のうち30〜50%程度をまず支払う案が浮上しているという。
動画配信機器大手の米ロク(カリフォルニア州サンノゼ)は10日、SVBに4億8700万ドル(約650億円)を預けていると発表した。ロクの現金および現金同等物の約26%に相当し、ほとんどが預金保護の対象外だという。10日付の証券当局への開示のなかで、預金を「どの程度回収できるかは不明だ」と述べた。
ロクは10日時点で約19億ドルの現金および現金同等物を保有し、このうち14億ドルは複数の大手金融機関に分散している。同社は現在の現預金残高と営業活動によるキャッシュフローは当面の現金需要を満たすのに十分だと説明している。
米ドルに連動するよう設計されたステーブルコイン、USDコイン(USDC)を発行する米サークル(マサチューセッツ州ボストン)は10日、USDCの裏付けとなる準備金のうちSVBに預けてある33億ドルが引き出せない状態だと開示した。資金回収への不安から、USDCには一時売りが殺到し、12%近く下落した。
がん患者向けの免疫治療法の開発を手がける米オンコラス(マサチューセッツ州アンドーバー)も10日、同社の現金および現金同等物の約23%に相当する約1000万ドルをSVBに預けていると開示した。
FDICによるとSVBの2022年末の総資産は約2090億ドルで全米16位。米西部カリフォルニア州と米東部マサチューセッツ州に計17の店舗を構えていた。08年9月に破綻したワシントン・ミューチュアル(総資産3070億ドル)に次いで米国で過去2番目の規模となる米銀破綻の影響は、シリコンバレー以外の地域にも広がっている。