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米インフレ鈍化、「軟着陸論」強く

日経新聞より引用

市場で米国の高インフレに転機が訪れたとの見方が広がり、株高を後押ししている。モノの価格高騰が収束したほか、賃金増に根ざすサービス価格の上昇も一服しつつある。米利上げ打ち止めの思惑も絡み、景気後退を回避する軟着陸シナリオが勢いを増している。

19日午前の米株式市場でダウ工業株30種平均は8日続伸し、1年3カ月ぶりの高値で推移する。投資家心理を支えるのがインフレの減速だ。この日発表の経済指標は予想に届かなかったが、「インフレ鈍化には好都合」との楽観論が先行する。

12日発表の6月の消費者物価指数(CPI)では前年同月比の上昇率が3.0%と2年3カ月ぶりに4%を割れた。米モルガン・スタンレーのチーフ・グローバルエコノミスト、セス・カーペンター氏は「インフレを巡る議論の転換点となりうる」と強調した。

モノの価格急騰は収束がはっきりしてきた。新型コロナウイルス禍では世界でサプライチェーン(供給網)が寸断され、深刻なモノ不足となった。一方、サービスからモノへの需要のシフトを伴いつつ、各国政府による巨額の財政出動が消費意欲を強く刺激した。

ここにきて供給網の正常化による供給制約の解消に加え、米連邦準備理事会(FRB)の急激な利上げや中国などの景気停滞を背景に、需要面も落ち着きつつある。

サービス価格も、高止まりしてきた家賃がようやくピークアウトしてきた。民間の先行指標は減速が鮮明だったが、CPIの統計上、利上げの効果が遅れて出てきた。

残る焦点である「家賃を除くサービス」も伸びが縮小しつつある。労働市場の逼迫を受けて賃金に上昇圧力がかかり、値段を押し上げてきたが、賃金指標にも減速する兆しがみえ始めている。

イエレン財務長官は17日、米ブルームバーグテレビに「賃金の伸びは緩やかになってきており、インフレは落ち着きつつある」と語り、雇用の急速な悪化が避けられる「好ましい軌道」にあるとの見方を示した。

市場でも軟着陸シナリオが勢いを増す。米ゴールドマン・サックスは1年後の景気後退確率を25%から20%に下げた。

だが人手不足が長引く可能性もある。バーナンキ元FRB議長らは最近の論文で「労働市場の逼迫が続くと、3年後のインフレ率を約1ポイント高める」との分析を示した。FRBは年内をメドに利上げ停止の機を探るが、現実の物価上昇率が目標の2%近辺に戻るまでには時間がかかりそうだ。

景気や物価の楽観論が市場を支配すると、株高による資産効果などから結果的にインフレ圧力を長引かせてしまう副作用も懸念される。FRBがインフレへの勝利を宣言できる状況はなお遠い。

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