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クレディ・スイス、なぜ経営不安? 中銀が資金供給策

イチからわかる金融ニュース

日経新聞より引用

クレディ・スイスとは

クレディ・スイスはその名の通りスイスを拠点とする銀行です。富裕層向け業務や投資銀行業務を手掛けています。

スイスの金融機関は300年以上にわたって国外の捜査当局を含む第三者への顧客情報の開示を拒んできました。秘密が守られるとの安心感は大きく、世界中の富裕層から資産を預かって運用してきました。1856年創業のクレディ・スイスもこうした特色を持つ銀行の一つでした。

ただ、2013年に米国の圧力でスイス政府と金融界が方針を転換し、スイス金融の特徴だった秘密主義によるビジネスモデルは終わりを告げました。

それでも富裕層ビジネスはスイス金融の強みとされています。スイス最大手のUBSは富裕層ビジネスで安定的に収益を上げています。2番手のクレディ・スイスは投資銀行部門に力を入れ、米国など海外事業を積極的に拡大しました。

経営不振の理由は?

クレディ・スイスの強みは富裕層ビジネスでしたが、徐々に米国など強化し、投資銀行業務に力を入れてきました。ゴールドマン・サックスなど米国勢と米市場で対抗できるまでの力を持ちましたが、過度なリスク追求に走った結果として経営不振を招いたとの指摘があります。

直近では2021年に米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメント関連で44億スイスフランの損失を計上。クレディは売買執行や融資などのヘッジファンド向けの取引サービスをアルケゴスに提供していました。アルケゴスは株式運用の失敗で求められた保証金の差し入れが履行できず、一部の取引金融機関が担保の強制処分に動きました。クレディは債権回収が遅れて損失が膨らみました。現地の報道によると、アルケゴス問題では与信の実態が破綻直前まで経営幹部に上がっていなかったそうです。

さらに不祥事も多数起きています。19年秋にはライバルのUBSに移籍した元ウェルス・マネジメント部門幹部への内偵スキャンダルが発覚。社員や顧客の引き抜きを恐れた最高執行責任者(COO)の指示で、探偵を雇って行動監視をしていた。当時の最高経営責任者(CEO)の引責辞任に発展しました。

リスク管理の甘さや相次ぐ不祥事で経営不振に陥り、クレディは2022年に最大40億スイスフラン(約6000億円)の増資や証券化事業の売却などを柱とする再建策を発表しました。増資を引き受けたのがサウジ・ナショナル・バンクでした。

15日には筆頭株主であるサウジ・ナショナル・バンクの会長が追加出資をしないと述べたと伝わり、株安に拍車がかかりました。事業再建策の公表後は小康状態でしたが、再び経営不安に注目が集まることになりました。

なぜ、中央銀行が資金供給?

世界各地で金融事業を展開するクレディ・スイスは「グローバルなシステム上重要な銀行(G-SIBs)」の指定を受けています。これは国際的な銀行規制で、自己資本などに厳しい要件が課されています。

同社によると危機局面で対応できる手元資金の水準を示す「流動性カバレッジ比率(LCR)」は14日時点で約150%。2022年末時点の144%から改善し、同社は健全だと主張しています。別の欧州金融機関幹部も「財務指標だけみると健全性は保たれている」と見ますが、米シリコンバレーバンクの経営破綻もあり、金融市場で不安が広がっているさなかに「弱いところを狙い撃ちする」(国際証券アナリスト)ように株価に売り圧力がかかりました。

仮にクレディ・スイスが破綻すれば、世界中の金融システムに影響が広がります。スイス国立銀は15日、スイス金融市場監督機構(FINMA)と連名で「システム上重要な銀行に対する資本や流動性の要件を満たしている」との声明を出し、必要があれば資金供給で支援すると表明しました。

ロイター通信によるとスイス中銀の素早い決定は「少なくとも主要国1カ国からスイス政府に圧力がかかった」と明らかにしています。市場関係者の間では主要国は米国とみられます。シリコンバレーバンク・ショックを世界的な流れに広げないように当局間で連携したとみられます。

日付が変わった16日の深夜にもかかわらず、クレディ・スイスは中銀が提示した仕組みを活用し、最大500億スイスフランを借り入れると公表しました。市場はひとまず好感し、16日の株価は2割程度上昇して取引を終えました。

しかし、クレディ・スイスの問題は収益力の改善です。同社の2022年12月期連結決算の最終損益は72億9300万スイスフラン(1兆円強)の赤字と2期連続の赤字が続いています。富裕層向け事業の預かり資産の流出に歯止めがかかるなどの安心材料が求められそうです。世界の金融市場がリスクに敏感になっており、今後もクレディ・スイスの経営状況が注視されやすい状況が続きそうです。

(山下晃、パリ=北松円香)

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