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世界企業の利払い負担、過去最大18兆円 デフォルト増加

日経新聞より引用

低金利を背景に拡大してきた有利子負債が、世界の企業の重荷になってきた。2008年の金融危機から15年となり、世界約7700社の有利子負債残高は約13兆ドル(約1900兆円)と危機直後に比べ2倍弱に膨張した。金利が上昇に転じ、足元の利払い負担も過去最高水準だ。企業の財務運営は転換期を迎えた。

金融危機後から継続して比べられる世界の7689社(金融除く)を対象にQUICK・ファクトセットのデータを集計した。23年4〜6月期末の有利子負債残高は12兆7581億ドルで、08年10〜12月期末の6.6兆ドルから92%増えた。

08年9月の「リーマン・ショック」が発端となった金融危機後、世界的な信用収縮に対応するため、米連邦準備理事会(FRB)は同年12月に政策金利を0%近くまで引き下げる事実上のゼロ金利政策に踏み切った。

こうした金融緩和政策とその後の経済回復を背景に、企業の有利子負債は右肩上がりで増えてきた。20年に新型コロナウイルス感染拡大で経済活動が収縮した際も、企業は守りを固めるため、手元資金を厚くする資金調達を急いだ。

リーマン・ショックは信用力の低い個人の借り手に対してお金を貸し付ける住宅ローン「サブプライム・ローン」が不良債権化したのが引き金となった。

野村総合研究所の木内登英エグゼクティブ・エコノミストは「企業債務は国内総生産(GDP)対比で歴史的な高水準にあり、経済の弱点は家計ではなく企業に移っている」と話す。

足元では借り入れ金利の上昇が新たな課題として浮上している。コロナ禍はおおむね収束し、企業の有利子負債残高は20年4〜6月期比で1%増にとどまるが、金利負担が重くのしかかる。

約7700社の23年4〜6月期の利払い額は約1250億ドル(約18兆円)で前年同期から約2割増えた。特に直近は5四半期続けて2桁の伸びとなっている。

利上げで資金調達コストが上昇

各国の利上げで資金調達コストは上がった。米インターコンチネンタル取引所(ICE)が算出する世界の投資適格社債の利回りは、21年末の1.9%から足元は5.4%に高まった。借り手の財務が脆弱な低格付け債も同5%から8.7%に上昇した。

銀行ローンなどの基準になる米ドルの担保付き翌日物調達金利(SOFR)も上昇が続き、足元では5%強の水準にある。

日本でも外貨建ての負債が多い企業を中心に影響が出ている。日本企業2300社の4〜6月期の利払いは9607億円と、前年同期比37%増えた。支払利息が3.3倍に膨らんだ帝人は「米欧の金利上昇の影響を受けた」と説明する。

広がるデフォルト

米S&Pグローバル・レーティングによると、低格付け企業の負債のうち、5割程度はレバレッジドローンなど変動金利のものが占める。営業利益が利払い費の何倍にあたるかを示す指標はじわじわと低下している。稼ぐ力や財務余力の乏しい企業は、足元の金利上昇の影響が顕在化し、支払いが滞る債務不履行(デフォルト)も広がる。

ムーディーズの調査では4〜6月の世界のデフォルト件数は前年同期比50%増の48件と同期間として3年ぶりの多さだった。

ガラス容器製造の米アンカー・グラス・コンテナやブラジルのアズール航空などは7月、デフォルトに陥った。デフォルトの割合を示す直近12カ月デフォルト率は7月末時点で4%と、21年末の2%程度から上がった。

企業は対応を急ぐ。米ベライゾンやクルーズ船の米カーニバルなどは、余剰資金を負債圧縮に充てる方針を掲げる。日本企業でも大型買収などにより借入金が膨らんだレゾナック・ホールディングス(旧昭和電工)が負債削減を進める。

低格付け企業は調達手段が限られる。みずほ証券の大橋英敏氏は「プライベートクレジット(投資ファンドなどによる非公開融資)での早期借り換えが増えている」と語る。借り入れ条件が銀行融資と比べて柔軟に設定でき、利用が急増しているものの、透明性がないといった課題もある。

S&Pの格付け対象企業では、24〜26年に計7.3兆ドルが返済・償還期限を迎える。そのうち24%は低格付け企業で、借り換えのリスクが高まる。ムーディーズは24年半ばにデフォルト率が10〜15%まで上振れる「悲観シナリオ」も想定する。

一橋大学の田村俊夫教授は「低金利のおかげで少ない利益でも利払いを賄えてきた『隠れゾンビ企業』の財務悪化が顕在化する」とみる。

財務が健全な企業でも、足元では追加利上げを懸念した駆け込み的な社債発行が増えている。スイスのネスレなどが9月に起債した。仏銀BNPパリバは金融緩和が続く日本で円建て債を発行した。JFEホールディングスが増資を発表するなど株式を活用した調達もじわり増えてきた。

野村総研の木内氏は「企業部門の金利感応度は個人より低いため景気減速はリーマン時より緩やかに進む分、期間は長引きやすくなる。米国で企業債務が問題となった1980年代は10年低迷が続いた」と話す。

(堤健太郎)

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