本日7日にパウエル米連邦準備理事会(FRB)議長が、半期に1度の金融政策報告書について米上院銀行委員会で証言する。2月1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見で「ディスインフレーションの始まり」を宣言した直後、雇用統計、消費者物価指数(CPI)、卸売物価指数(PPI)、小売売上高の重要経済指標は、インフレ後退どころか、インフレ長期化を市場に印象づけた。パウエル氏は、そもそも「インフレは一時的」との痛恨の判断ミスを犯したが、今回は「ディスインフレが一時的であった」となる可能性がある。それゆえ議会公聴会での説明に市場は注目する。
すでにFRB高官が相次いで講演などでインフレに関する最新の所見を語っている。昨年12月のFOMC時点では、ほとんどのFOMC参加者が、利上げ幅は0.25%へ減速で、ターミナルレート(利上げの終着点)予測は5%をやや上回る水準との見解でほぼ一致していた。
ところが、ここにきて、その一枚岩に亀裂が目立ち始めた。3月利上げについては、0.25%派と0.5%派に分かれる。さらに、ターミナルレート予測については、5%前半が主流だが、先週から5%後半予測が出始めた。3日にはリッチモンド連銀のバーキン総裁が、5.5〜5.75%予測を明言した。さらに4日には、サンフランシスコ連銀のデイリー総裁が、利上げがこれまでの想定より「高く、長期に」なる可能性を示唆した。現時点での状況を考慮すれば、インフレは依然高水準で「継続的引き締め」を考えるべきだ、と語った。同氏は、FRB副議長指名時に、ブレイナード氏の対抗馬といわれてハト派と見られてきた。ブレイナード氏もハト派であったが、現在は国家経済会議(NEC)委員長に指名され、FRBを去った。今後は、デイリー氏が、主要なハト派の一人と見られている。それだけに同氏の「継続的引き締めを考えるべきだ」とのタカ派的発言は、FOMC内の潮流の変化を想起させる。
なお、ターミナルレート予測に関しては、ミネアポリス連銀のカシュカリ総裁が、これまでの5.4%より高い水準となると語っている。対して、アトランタ連銀のボスティック総裁は、慎重なスタンスで、利上げは0.25%刻みで、あと2回が妥当と語った。この発言は、特にニューヨーク(NY)株式市場では歓迎され、その時点(2日)では株価急騰要因となった。
さらに、ウォーラーFRB理事は、ターミナルレートが5.1〜5.4%予測を支持しつつも、今後のインフレ指標が「ホット」ならば、上方修正が必要と語っている。
このような状況で、市場予測はターミナルレートが5%半ばから6%接近水準まで先走りしていることは、前回の本欄で詳述した。とはいえ、米債券市場でのドル金利が上昇しても、米株価は下がらず反騰する局面も頻繁に見られる。このような金利と株価のディスコネクト(両市場が独立して動く)が頻繁に見られるということは、結局、それぞれに市場の潮流を読み切れず、短期的に独自の投機的ポジションを作っては手じまう動きが繰り返されているわけだ。NY株価弱気派の代表格となったモルガン・スタンレーのマイケル・ウイルソン氏が、弱気の見方は変えないが、短期的にはテクニカル要因で強気派に転じた事例が示唆的である。筆者には苦しい弁明と映るのだが。総じて、株式市場は楽観で育ち、債券市場は悲観論で育つ傾向は変わらない。
さて今週は10日に米雇用統計、来週は14日にはCPI、15日にはPPIと小売売上高と重要経済指標が相次いで発表される。
果たして、1月の雇用統計異変は、統計的な一時的現象であったのか。22日にFOMCを控え、NY市場の多くのファンド勢は、この1週間が、今年前半のヤマ場と、固唾をのみ注視している。