特任編集委員 滝田洋一
米国で連鎖する地銀の経営不安、欧州で巻き起こった大手行の経営危機。米欧の金融の春の嵐に共通するのは、SNS(交流サイト)時代の銀行取り付けである点だ。
シリコンバレーバンク(SVB)の破綻を機に、米国では次のSVB探しが駆け巡る。有価証券含み損が多く、預金保険対象外の大口預金の比率が高く、現金比率の低い銀行が狙われる。
少しでも厚めに手元資金を確保しよう。明日は我が身と、米銀は米連邦準備理事会(FRB)に駆け込んだ。
①銀行のFRBからの借り入れは8日の40億ドルから、15日にはリーマン・ショック時をも上回る1528億ドルに。
②FRBが新設した長期資金供給プログラムも119億ドル発動された。
③米連邦預金保険公社(FDIC)はSVBなどの預金を全額保証するため、FRBから1428億ドル借り入れた。
わずか1週間で合計3075億ドル(40兆円強)もの緊急資金供給。それは今回の流動性危機の爪痕の深さを物語る。
クレディ・スイス(CS)の場合は、筆頭株主のサウジアラビア国立銀行が追加出資を拒絶し、一気に経営危機に。
スイス政府は500億スイスフランの流動性供与を発表したが、預金流出の前には焼け石に水。UBSによるCSの合併を、政府が前面に立ち実現した。いかにも急場しのぎの感は否めない。
スイス当局はCSの破綻だけは避けようとして、CS株は生かす一方で、CSが資本かさ上げの目的で発行したAT1債は紙くず扱いした。欧州の銀行にはCSと同様にAT1債を発行しているところが多いとあって、この措置はびっくり箱を開ける形になった。
ヘボ将棋、王より飛車をかわいがり。そんなスイス当局が招いた金融の混乱に慌てた英国やシンガポールなどの当局は「銀行破綻時にはAT1債の保有者より先に株式保有者が損失を被る」との見解を発表する羽目になった。
米国で市場が当局を突くのは預金の全額保護という踏み絵だ。バイデン政権は破綻したSVBとシグネチャーバンクの預金の全額保護を打ち出した。他の銀行についてはどうか。
オクラホマ州のランクフォード上院議員は上院銀行委員会で、「自州のコミュニティバンクの預金者はSVBのように保護されるのか」とイエレン財務長官を問い詰めた。それは言えれんとばかりに財務長官は言葉を濁した。
イエレン長官は発言に苦心惨憺(さんたん)している。21日には「小さな金融機関でも預金保護はあり得る」と軌道修正するも、22日には再び「全面的な預金保護は検討していない」と述べたのだ。市場は経営基盤の弱い中小金融機関を攻めるだろうが、もうひとつ投資ファンドなどノンバンクも見逃せない。利上げの打ち止め時期が見通せないなかSNS取り付けは続く。
[日経ヴェリタス2023年3月26日号]