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米「預金危機」封じ込め 大手11行、中堅銀行を資金支援

日経新聞より引用

米国が金融不安の封じ込めに手段をつくしている。経営不安が広がった米中堅銀行には、大手銀11行が預金を提供する異例の措置を決めた。銀行による米連邦準備理事会(FRB)からの借入額はリーマン・ショック時の1.4倍となった。官民が緊迫感を強める背景には預金流出の連鎖がある。「預金危機」を止められるか予断を許さない。

「ほとんどが『チェース』への移動だ」。米カリフォルニア州に拠点を置くベンチャーキャピタルの関係者は、出資先の企業が、破綻したシリコンバレーバンク(SVB)から最大手のJPモルガン・チェースに預金を移していると明かす。

米当局はSVBなど破綻2行の預金を全額保護する方針を打ち出した。ところが、予期せぬリスクを負いたくない預金者はSVBにとどまらず他の中小銀からも資金を引き出している。米ブルームバーグ通信によると、SVBの破綻から数日で米バンク・オブ・アメリカには150億ドル(約1兆9900億円)の預金が集まった。

強い預金流出に見舞われたのが中堅のファースト・リパブリック・バンク(FRC)だ。米西部カリフォルニア州を本拠地とする同行は富裕層や不動産、テック企業との取引が多い。

12日にはFRBとJPモルガンの追加与信枠設定で700億ドル以上の流動性を確保したが、預金流出は止まらなかった。FRBから15日までに最大1090億ドルを借り入れたものの、手元資金は同日時点で340億ドルまで目減りしていた。

破綻した2行は、金融緩和下で預金が急増した点と、25万ドルの保護上限を超える保険対象外の預金が全体の9割と高いところが同じで、預金が流出しやすい構造にあった。FRCも預金の増加と保険対象外の比率が7割と高い点で似る。米銀の平均は5割程度だ。

FRCの預金流出は10日のSVB破綻後に加速。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、今週にイエレン米財務長官はJPモルガンのジェイミー・ダイモン最高経営責任者(CEO)や他行のCEOと協議し、支援策を練り始めたという。11行で合計300億ドルの預金をFRCに少なくとも120日間置く対策でまとまった。

大手銀に「奉加帳」を回す対応は、1998年秋の大手ヘッジファンド、ロングターム・キャピタル・マネジメント(LTCM)の危機でみられた。ニューヨーク連銀が音頭を取り、有力金融機関が追加出資策をまとめた。救済しなくては金融システム不安につながりかねないとの危機感は当時と共通する。

預金流出の根底にはFRBによる急ピッチな利上げがある。短期債などで運用し政策金利に敏感なMMF(マネー・マーケット・ファンド)の利回りは1月に4.3%台に上昇した。一方、預金金利は貯蓄口座で0.2〜0.3%台にとどまる。金利差からMMFや米国債に資金が流れ、米銀の預金残高は22年3月に記録した過去最高の19兆9300億ドルから減少に転じ、22年末にはピーク時から4%減った。

「金利5%つけます」。米金融情報バンクレートのウェブサイトでは、地銀やオンライン銀行が譲渡性預金(CD)で軒並み高金利を提示する。資金をひき止める狙いとみられる。特に高金利を提示するのが、オンラインや地銀など中小銀だ。

ゴールドマン・サックスの分析によると、1月下旬から2月にかけての大手銀の預金流出額は68億ドルで預金に占める割合は0.1%だったが、中小銀では543億ドルとなり同1%を占めた。そこにSVB破綻が起こり、さらに流出が加速しているとみられる。

米銀の資金繰り懸念の広がりはFRBからの借り入れからも明らかだ。16日発表の統計によると、資金繰り支援でかねて設けている融資枠の利用は1528億ドルと前週比33倍に拡大。リーマン危機後の08年10月のピーク(約1100億ドル)を大幅に上回った。

SVB破綻を踏まえ新設した長期資金の融資枠なども含む大量の資金供給の結果、FRBの総資産は8兆6393億ドルに拡大した。量的引き締め(QT)で圧縮してきた資産規模が約4カ月ぶりの高水準に逆戻りした。

銀行規制に詳しい野村資本市場研究所の小立敬主任研究員は「(SVBの破綻は)SNSで信用不安が広がる『現代的なバンクラン(取り付け騒ぎ)』。モバイル端末でも簡単に引き出せるので過去に類を見ない流出の早さだ」と指摘する。11行によるFRCへの預金拠出については「潤沢な資金を見せて不安を抑える一定の効果はある」とみる。

預金危機を封じ込められるかは不透明だ。ここ数日間で急落していたFRCの株価は16日、支援策を受け前日比10%高で取引を終えた。ところが17日の取引開始後は再び20%ほど下げる場面もあり、市場の不安は鎮まっていない。

イエレン財務長官は16日の議会証言で、地銀から大手銀に資金を移す動きを止める具体策を聞かれ、答えに窮した。米国の預金者は、金利など条件よりも安全を重視する傾向を強めている。

(ニューヨーク=大島有美子、斉藤雄太、竹内弘文)

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