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米欧銀行の負の共振、「量的緩和第5弾」の足音

日経新聞より引用

米欧で銀行経営に対する不安が高まっている。米銀シリコンバレーバンク(SVB)などの経営破綻が尾を引くなか、欧州ではスイスの金融大手クレディ・スイス・グループの経営不安が急浮上した。景気の先行き不透明感のみならず金融システム不安も重なることで、中央銀行がいよいよ180度政策を転換する時が来るのかが次の焦点になる。

取り付け騒ぎにより経営が破綻したのがSVB。一方の名門クレディ・スイスでは過去の財務管理の問題と、それをきっかけにした筆頭株主サウジ・ナショナル・バンクによる追加出資の「拒否」報道に直面し、信用リスク懸念が急速に高まった。米欧の2つの事象には直接の関連性はないが、金融のひずみがここに来て同時多発で噴出したのは、米連邦準備理事会(FRB)の金融引き締めが引き金だったとみられる。

大西洋をまたいで共振する金融システム不安により、金融政策はこれまでとは異なるフェーズを迎えようとしている。

「われわれは正式に『QE5』の局面にきた。FRBのバランスシートは再び増え始める」。米著名エコノミストのピーター・シフ氏は14日こう語った。

「QE=量的緩和」。再びこの言葉が出てきた。2008年に発生したリーマン・ショックの処理のために始まった量的緩和は、08年11月に始まった第1弾(QE1)、10年11月からの第2弾(QE2)、12年9月からの第3弾(QE3)と続き、14年に終わった。

さらにFRBは新型コロナウイルス対策として20年3月から資産買い入れを開始し、21年11月に縮小を決めた。これをQE4と呼ぶ市場関係者もいる。

いまはどうか。QEのとば口になるかもしれないのがSVB問題の封じ込めを狙ってFRBが導入を決めた「銀行タームファンディングプログラム(BTFP)」だ。銀行は米国債や住宅ローン担保証券(MBS)を担保に1年間資金を借りられるというものだ。

BTFPは担保オペの一種であり資産買い入れではない。だが、債券の担保価値が債券の時価ではなく額面だという点が大きい。金融引き締めを背景にした金利の大幅上昇で債券の時価は大きく下がっている。額面で借りられるというのは借り手にとってはかなり有利となる。

一時的な措置であるBTFPだが、この先には本格的なQE5があるかもしれない。ヒントは従前から広がっていた景気後退(リセッション)観測だ。

景気後退の気配を感じる市場関係者はシフ氏のみではない。仏ソシエテ・ジェネラルの米株式戦略のトップ、マニシュ・カブラ氏はFRBの過去8回の利上げ局面のうち7回が景気後退を招いていると指摘。今回は「24年1〜6月期に後退が始まる」として、「米国株はまだ底打ちしていない」としている。

米利上げによる経済の打撃ばかりが意識されてきたが、金融システム不安によるマネーの収縮の気配もくすぶり始めてきた。FRBを巡っては利上げの有無、あるいは早期利下げの時期について市場では取り沙汰されてきた。だが論点が「量」へと移るのは遠くないかもしれない。

リーマン・ショック時と異なり世界の金融当局は厚めの資本を金融機関にもたせる取り組みを進めてきた。安全網は整っているとされているが、それにしても不穏な空気が世界の市場に漂ってきている。

(NQNシンガポール=秋山文人)

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