外国為替市場で一方的な円安が続いている。対ユーロでは15年ぶりの安値をつけたほか、対スイスフランでは最安値圏にある。インフレ高止まりで世界の中央銀行が追加的な金融引き締めを模索するなか、日銀の緩和継続姿勢が円売りを促す。政府・日銀がドル売り・円買いに動いた水準に近づき、市場では警戒感が高まってきた。
日銀が大規模緩和の維持を決めた16日の外国為替市場。日本円は対ドルで1ドル=141円90銭台と2022年11月以来の円安・ドル高水準を付けた。2022年秋につけた1990年以来の安値である151円台にはまだ遠いものの、今年の安値を更新している。
ドル以外の通貨に対しても円の安さが際立つ。16日には対ユーロで1ユーロ=155円台前半と08年9月以来15年ぶりの円安水準を付けたほか、対英ポンドでは一時1ポンド=182円近辺と15年12月以来のポンド高・円安水準となった。スイスフランに対しては1スイスフラン=158円台と最安値圏にある。
円の6月の騰落率を見ると、対主要先進国だけでなく豪ドルやブラジルレアル、韓国ウォンなど幅広い通貨に対して円売りが進んでいる。円独歩安の背景にあるのは、金融政策の方向性の違いだ。
米連邦準備理事会(FRB)は14日、11会合ぶりに政策金利を据え置いた。ただ年内にあと2回の利上げを実施する見通しも示した。欧州中央銀行(ECB)は15日の会合で利上げを決めたほか、7月も利上げを続ける方針を明らかにした。
主要国でマイナス金利政策を続けているのが日銀だけだ。トレーダーは16日の金融政策会合で「緩和修正なし」を確認すると、安心して円を売れるようになった。低金利の円を借りて高金利通貨を買うことで金利差収益を狙う「円キャリー取引」で、利ざやを取ろうとしている。
一方、急ピッチの円安は市場関係者に新たな警戒を呼んでいる。政府・日銀による為替介入の可能性だ。対ユーロの円相場の週間下落率は3.5%と、17年4月以来6年ぶりの大きさとなった。政府・日銀が最初に円買いに動いたのは22年9月。欧州の主要通貨に対して円は当時の安値を突破している。
現時点で対ドルの円安は、欧州や資源国の通貨に比べて落ち着いている。ドルに対しても円売り圧力が強まれば、輸入物価の上昇などを通じて「悪い円安」との批判が高まりかねない。
大和証券の岩下真理チーフマーケットエコノミストは「1ドル=145円台まで下落すれば政府内の円安への危機感が増すだろう」とみる。政府・日銀が最初の円買い為替介入に動いた水準が1ドル=145円で、節目として意識されている。