米国の利上げ停止が視野に入るなかでも円安圧力が根強い。2022年度の円相場は対ドルで11円ほど下落し、26年ぶりに2年連続で10円を超える円安となった。貿易赤字の拡大で円をドルに替える需要が根強いほか、企業が海外で稼いだ外貨を円に戻す動きも乏しい。人口減少や国内産業の空洞化といった国内経済の弱さから、円安基調が続く可能性がある。
31日午後5時時点の円相場は1ドル=133円12銭前後で、1年間で11円48銭下落した。値下がり幅は21年度(10円90銭)から拡大した。1995〜96年度は2年間で36円近く円安進んでおり、2年連続で下落幅が10円を超えたのはその時以来となる。当時はルービン米財務長官が「強いドル」政策を提唱していた時期にあたる。
長引く円安の背景には、日本の産業構造の変化がある。2022年(暦年)の貿易赤字はおよそ20兆円と過去最大に膨らみ、23年1〜2月も赤字が続く。エネルギーやスマートフォンなどの輸入が増える一方、円安でも輸出が伸び悩む。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券によると、輸入でのドル買いと輸出でのドル売りを差し引いた貿易全体のドル買い需要は22年11月〜23年1月平均の年換算値で、36.4兆円にのぼる。遡れる00年以降で最大規模に膨らんでいる。
31日も輸入勢のドル買い注文が増える朝方に133円50銭台まで急速に円安が進む場面があり「実需筋のドル買い需要の強さが確認できた」(三菱UFJモルガンの植野大作氏)という。
貿易収支に海外との投資やサービスのやり取りなどを加えた経常収支でみると、11兆円超の黒字を確保している。特に海外子会社の配当などの第1次所得収支は35兆円もある。ただしこのうち3割前後は海外での再投資に回る。住友商事グローバルリサーチの鈴木将之氏は「企業が日本に資金を還流させる意識は乏しい」と指摘する。
個人マネーも海外に向かい、円を外貨に替える需要が拡大している。投資信託協会によると、主に海外株式で運用する投信には22年4月から23年2月にかけて3兆円ほどの資金が流入した。
これらに通底しているのは、日本経済を巡る成長期待の低下だ。みずほ証券の小林俊介氏は「設備や人、株式など日本への投資が増えず、それが円の需要を低下させている」と指摘。さらに「円安が貿易赤字の拡大を招くという負の循環を抜け出せなくなっている」とみる。
市場では、23年度は米連邦準備理事会(FRB)の利下げ転換を見込む投資家が多い。植田和男氏が新総裁に就く日銀も「金融緩和の修正に動く可能性があり、円高が進みやすい」(インドのLICミューチュアル・ファンドのアフマド・アジーム氏)との声もある。その場合でも120円を超えるような円高を予想する投資家は少ない。
22年度末の日経平均株価は2万8041円48銭だった。大幅な円安が進む中でも、21年度末比で220円05銭(0.8%)の上昇にとどまった。日銀が長期金利の上限を引き上げたこともあり、指標となる10年物国債の利回りは0.32%と0.11%上昇(価格は下落)した。利回りが上がったのは4年連続となった。
国内の金小売価格は22年度に12%上昇し、31日には最高値となる1グラム9385円を付けた。欧米の金融システム不安に加え、円安の進行が国内金価格を押し上げた。