【北京=川手伊織】中国で消費者物価指数(CPI)の停滞が長期化する懸念が出てきた。5月は前年同月比0.2%上昇にとどまった。住宅販売の不振が響き、家電や家賃といった関連のモノやサービスが値下がりした。雇用や所得の改善が緩慢で、物価が上がりにくい「ディスインフレ」の状況が続いている。
国家統計局が9日発表した。全体の上昇率は4月(0.1%)からわずかに拡大した。ただ1月の「ゼロコロナ」政策終了で始まった景気の持ち直しに息切れ感が出て、物価も伸び悩んでいる。
主要国の中央銀行が物価の趨勢を判断する際に重視する食品とエネルギーを除く「コア指数」の伸びは0.6%と、4月から0.1ポイント縮まった。同指数が映すとされる家計の購買力が盛り上がりに欠けるためだ。
中国で経済への波及効果が大きい不動産市場は今春以降、再び低迷している。不動産シンクタンクの易居不動産研究院によると、主要50都市の新築取引面積は4月に前月比25%減り、5月も1割超落ち込んだもようだ。
住宅が売れないと、付随するモノやサービスの消費もさえない。家電は前年同月比1.8%下落し、4月から落ち込み幅が拡大した。家賃は0.3%下がり、過去最長となる13カ月連続のマイナスを記録した。
自動車やバイクは4.2%、スマートフォンなど通信機器も2.1%、それぞれ前年同月を下回った。耐久財の値下がりも物価上昇を阻む。このほかガソリンなど交通燃料も11.1%下回った。国際価格が昨年高騰した反動で、下落率は4月の10.4%から拡大した。
雇用の増加ペースが鈍く、消費や物価に影を落としている。中国人力資源・社会保障省によると、1~4月の都市部新規雇用は424万人だった。昨春は上海がロックダウン(都市封鎖)に踏み切った。その反動で前年同期を4%上回ったが、新型コロナウイルス禍前の17~19年平均と比べると9%少ない。
景気回復力に陰りが見え、金融市場では中国人民銀行(中央銀行)による追加利下げ観測が浮上。国有大手銀行は8日、一斉に預金金利を引き下げた。預金コストを軽減させ、収益力を高めるとともに、住宅ローン金利や企業への貸出金利を引き下げる余力をつくったとの受け止めが広がった。