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シリコンバレー銀破綻、FRB悩ます副作用(NY特急便)

NQNニューヨーク 松本清一郎

日経新聞より引用

10日のダウ工業株30種平均は4日続落した。米中堅金融会社SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレーバンク(SVB)の経営破綻でリスク回避の株売りが広がった。

SVBは8日夕に22億ドル(約2900億円)強の資本増強策を発表したばかりだったが、破綻まであっという間だった。9日以降に預金流出が加速したうえ、株価暴落で資本増強自体が不可能になったからだ。資産規模は2090億ドルと、2008年のリーマン・ショック以降では最大の銀行破綻となった。

SVBはシリコンバレーに本拠を置き、ベンチャー企業やベンチャーキャピタル(VC)への融資を手掛ける。会社資料によると、VCが投資するハイテクとヘルスケアの昨年の新規株式公開(IPO)企業のうち、44%がSVBの取引先だったという。

米連邦準備理事会(FRB)の急激な金融引き締めが破綻の遠因になった。まず昨年からIPOが急減して本業の収益が伸び悩んだ。利上げに伴って保有する米国債や住宅ローン担保証券の価格が下落し、多額の損失も抱えた。とどめを刺したのが資金調達コストの上昇だ。顧客のベンチャー企業が現金消費を増やして預金残高が減り、資金不足を補うための預金や短期資金の調達金利が急騰した。

保有資産を圧縮するFRBの量的引き締めにより、米国の預金システム全体から資金流出が続いている。RBCキャピタル・マーケッツのジェラルド・キャシディ氏は「強力な預金基盤を持たない銀行は、市場からの資金調達で重い負担を迫られる」と指摘する。10日の米株市場では地域銀行株に連想売りが広がり、一時は5割以上も株価が暴落した銘柄が相次いだ。

利上げを続けるFRBは難しい判断を迫られる。エバコアISIのクリシュナ・グーハ氏は「金融引き締めが金融システムを揺さぶり始めた証拠であり、FRBは慎重にならざるをえない」とみる。ヤルデニ・リサーチのエド・ヤルデニ社長も「(SVB破綻は)金融政策が十分に景気抑制的な水準に達したことを意味する」と指摘。FRBが今月に開く米連邦公開市場委員会(FOMC)で「利上げ幅を0.25%にとどめるべきだ」と主張する。

ただ、大幅な利上げが銀行や住宅など金利に敏感なセクターに悪影響を及ぼすのはわかりきっていたことだ。問題はそれ以外のセクターに利上げが効いていない点にある。10日発表の2月の米雇用統計は失業率は3.6%に上昇したが、非農業部門雇用者数は前月比31.1万人増と市場予想(22.5万人増)を大幅に上回った。SVBの一件がなければ、今月のFOMCでの0.5%利上げ観測を補強していたはずだ。

①好調な雇用と賃金上昇②新型コロナ対策の家計支援で膨らんだ超過貯蓄③株高による資産効果が消費を支える構造は崩れない。2%のインフレ目標に近づけるには、本来なら経済を強く締め上げる必要がある。

FRBは金融システムへの副作用に気を配りながら、緩やかに金融引き締めを続けていくことになるだろう。慎重になりすぎてインフレが再加速すれば袋小路に追い込まれかねないリスクもある。市場にとっても金融政策の予想は一段と難しくなった。

(NQNニューヨーク=松本清一郎)

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