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過熱薄れる米雇用、景気「軟着陸」期待高まる 消費焦点

日経新聞より引用

【ニューヨーク=斉藤雄太】金融市場で米景気の軟着陸(ソフトランディング)への期待が高まっている。8月の雇用統計などを通じ、労働市場の過熱感が薄れてきたとの見方が広がる。賃金・物価高圧力の後退は米連邦準備理事会(FRB)の望む展開でもある。利上げ終結期待が株価を支える一方、消費の持続力が焦点となる。

「労働市場の減速を決定づける」(米債券運用大手ピムコ)、「雇用を取り巻く熱波は過ぎ去った」(調査会社オックスフォード・エコノミクス)――。1日に8月の雇用統計が公表されると、米市場ではこんな受け止めが広がった。

非農業部門の就業者数は前月比18万7000人増と市場予想より多かった。だが6〜7月の結果が下方修正され、3カ月平均をみると8月は15万人にとどまった。コロナ禍前の2019年の月平均(16万人強)を下回り、雇用の拡大は巡航速度に落ち着きつつある。

8月は失業率が前月比横ばいの市場予想に反して0.3ポイント上昇し、3.8%と1年半ぶりの高さになった。米経済の急な悪化を映したというより「職探しをする人が増えた結果で良い兆候」(PNCフィナンシャル・サービシズ・グループのガス・ファウチャー氏)と好意的な解釈が多い。

コロナ禍による中高年の早期退職や移民の流入停止で、労働市場は深刻な働き手不足に陥った。就業者と求職者を合計した労働力人口が16歳以上の全人口に占める「労働参加率」も低迷が続いたが、8月は62.8%とコロナ禍直前の20年2月以来の高さを記録した。

求職者の増加に伴う労働需給の緩みが失業率上昇につながった。「賃上げ圧力を弱め、インフレ鈍化につながる」とファウチャー氏はみる。

雇用減速は景気軟着陸に向けた重要な要素だ。賃金・物価高の鈍化が確認できれば、FRBは利上げ打ち止めを決めやすくなる。過度な引き締めで雇用を大きく損なう事態を回避できる。

JPモルガン・チェースのブルース・カスマン氏は今回の雇用統計について「FRBにとって非常に心強い結果」と語った。市場参加者の多くは19〜20日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げ見送りをほぼ確実とみる。

ゴールドマン・サックスは「7月がこのサイクルで最後の利上げだった」と読む。米金利先物市場が織り込む政策金利見通しも、1週間前に過半を占めた11月までの追加利上げ確率が1日夕時点で4割弱まで低下した。

利上げ打ち止めは米国株の追い風となる。8月最終週のダウ工業株30種平均は前週末比1.4%高で3週間ぶりに上昇で終えた。上昇率は7月中旬以来の大きさだ。

8月上旬は米国債の格下げや増発計画などで米金利が上昇(債券価格は下落)し、株価の重荷になった。ただ同月下旬の「ジャクソンホール会議」でFRBのパウエル議長が過度にタカ派的な姿勢をみせなかったほか、労働需給の緩和で金利上昇に一服感が出てきた。

今後の焦点の一つは国内総生産(GDP)の7割を占める消費への影響だ。米調査会社コンファレンス・ボードが発表した8月の米消費者信頼感指数は、3カ月ぶりに前月を下回った。

所得や労働環境の短期的な見通しを示す「期待指数」は、80.2と前月から7.8ポイント低下した。同指数は80を下回ると、景気後退リスクの高まりを示すとされる。雇用鈍化とともに、足元で堅調な個人消費が崩れてくれば、市場は軟着陸シナリオの見直しを迫られる。

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