Foresight 米モルガン・スタンレー マイケル・ウィルソン氏
米国株相場が再び不安定になってきた。2022年の株価急落をほぼ正確に言い当てた米モルガン・スタンレーのチーフ米国株ストラテジスト、マイケル・ウィルソン氏は「今年の業績悪化を考えると株価は高すぎる」と指摘し、今後3〜4カ月以内に一段安の局面がくると予想した。日銀の金融政策見直しについては金融市場にとって「予測不能なリスク」と警戒感を示した。
米景気後退入りを確信
――22日の米株式市場でナスダック総合株価指数が今年最大の下落率を記録しました。相場の変調はなぜ起きたのでしょうか。
「今の相場を動かしているのは金利だ。金利の水準とボラティリティー(変動率)の両方が上昇しており、ハイテク株には大きな逆風となる。(10カ月以上続いてきた)弱気相場における最後の下落局面のはじまりかもしれない。その場合は10〜20%の下げが見込まれる」
――かねて23年の米株相場について慎重な見方を示してきました。
「米企業業績の悪化を踏まえれば、今の株価は高すぎる。S&P500構成銘柄ベースの23年の1株あたり利益は190ドル程度(22年実績は217ドル、ファクトセット集計)に落ち込むだろう。予想PER(株価収益率)は18.5倍で割高な水準だ。投資対象として最悪の部類に入る」
「私は米景気が後退に陥ると確信している。米企業は赤字になったり、収益性の低下に直面したりしたら、年内のどこかで従業員の解雇に踏み切るだろう」
今後半年〜1年間は減益続く
――22年10〜12月期決算について「事前予想ほど悪くなかった」といった声も聞かれ、発表後に株価が上昇する例もありましたが。
「ハイテクや通信サービスは前年同期に比べて13〜14%程度の減益だった。どうみても良い結果とはいえない。それでも流動性やテクニカルな理由、空売りの買い戻しなどで株価が上がると、(業績に関係なく)都合良く解釈してしまう」
「私たちは企業業績が(今のサイクルで)最悪期を過ぎたと考えていない。あと2〜4四半期程度は減益決算が続く。市場のコンセンサスと私たちの予想の違いはここにある」
――S&P500の昨年末比の上昇率は5%です。なぜ業績悪化を無視したような株価形成が進むのでしょうか。
「次の強気相場を見逃すことを恐れ、参加しようと皆必死なのだ。(銘柄選別を専門とする)アクティブ投資家やヘッジファンドなどの運用者たちは毎月、収益を上げなければならず、大きなプレッシャーがかかっている」
「(株や債券のボラティリティーに応じて資産配分を決める)リスクパリティー戦略やCTAなど、企業業績とは無関係の投資判断をする運用主体の存在感も高まっており、ファンダメンタルズ(経済の基礎的条件)を無視した値動きになってしまう」
――企業業績とかけ離れた株高はいつ限界に達すると予想しますか。
「今後3〜4カ月の間に起きるとみている。もし実現しない場合、私たちの収益予想が間違っていたか、金融市場に過剰な流動性が存在していたか、だろう」
「S&P500は(現在の4000前後から)少なくとも22年10月の安値(3500程度)まで下げると確信している。下値のメドは3000から3300の間とみている」
日銀の政策修正は「予測不能なリスク」
――投資家がリスク回避姿勢を強めるきっかけは。
「通常、収益が前年同期比5%以上のマイナスになると、市場関係者は先行き不安に陥る。(投資家が株式に要求する追加リターンである)リスクプレミアムが上がり、PERは下がる」
「次に市場の流動性だ。現在、中国人民銀行(中央銀行)の金融緩和に加え、日銀が円相場や国債市場を守るため積極的に国債を買っており、米連邦準備理事会(FRB)など他の中銀による引き締めの効果を相殺しているが、持続的とはいえない」
「FRBはタカ派姿勢を続けるとみており、金利は上がっていくだろう。日銀が長短金利操作(イールドカーブ・コントロール=YCC)を撤廃したり、見直したりした場合も金利環境に影響が及ぶ」
――日銀の政策見直しは米国の投資家にとってリスクですか。
「ワイルドカード・リスク(予測不能なリスク)といえる。仮にマイナス金利をゼロに戻したり、それ以上に上げたりするようなことがあれば、世界の金利市場や米国株にとって逆風となる」
「私は(金融政策や経済見通しに基づいて売買する)マクロファンド業界の運用者全員と話をした。彼らは皆、日銀が動かざるを得ないと考えており、日本国債をショート(空売り)している。リスクが現実として存在することを示唆する」
「もっとも、ここで注目すべきテーマは、(20年にわたって低金利環境が続いた)一方通行の局面を経て、世界の金利が正常化しつつあるということだ。世界中の金融市場にとって最も重要な進展といえる。もう後戻りはない」
――次の「ニューノーマル(新常態)」は何でしょうか。
「第2次大戦後の1940年代のように、ブーム(景気拡大)とバスト(縮小)を繰り返す。2020〜21年にブーム、22年にバストがあった。23年の一部と24〜25年に再びブームが訪れ、おそらくまた減速するだろう」
「過去30年間を振り返ると、インフレや国内総生産(GDP)成長率、生産性など、すべての経済変動要因は非常に予測しやすいものだった。労働力やエネルギー、あらゆるものが豊富で、経済の変動はかなり低く抑えられた」
「今後は経済や市場のボラティリティーが上昇する。エネルギーや労働力、資本コスト、輸送能力、さらには貿易関係など、ほとんどすべてで希少性が高まった。これらの変動が現在の経済サイクルを決定する」