投資情報ななめ読み

浮上する1ドル=140円説 長引く米インフレ、円安圧力に

編集委員 小栗太

日経新聞より引用

外国為替市場で「1ドル=140円説」がささやかれ始めた。年初には「2023年は緩やかな円高の年になる」との予想が多かったが、米国の根強いインフレ圧力が市場の相場観にじわり影響。金利差と需給という為替相場の基本材料が引き続き円売り要因として働きやすいとの見方につながり、円安予想の背中を押している。

円相場は22年10月に1ドル=150円の節目を下回って以降、一時130円を超える水準まで戻ってきたが、2月以降は一転。再び円売り・ドル買いが強まっている。

背景にあるのが、米国のしつこいインフレ圧力だ。市場参加者は年初、今年春までにインフレが収まり、米連邦準備理事会(FRB)も利上げを停止するとの見通しを立てた。ところが2月に入って発表された1月の米雇用統計と米消費者物価指数が相次いで米国のインフレ圧力の根強さを示し、市場では「年前半は米利上げが続く」との見方に修正せざるを得なくなった。

「円キャリー取引が強まる条件が整いつつある」。JPモルガン・チェース銀行の佐々木融氏は「円相場は140円台乗せを目指すか?」と題したリポートでこう指摘した。注目するのは、日本と海外の政策金利差の推移だ。

同行が集計する海外主要中央銀行の政策金利の加重平均値から日銀の政策金利を引いた値は、今年2月時点で4%を超えた。佐々木氏によると、超低金利の円資金を借りて外貨資産に投資する円キャリー取引が活発になった05〜07年は政策金利差が3〜4%台だった。このため、FRBの政策金利がピークに達する年央から同取引が再び活発になると読んで「140円台まで円安が進んでもおかしくない」と予想する。

みずほ銀行の唐鎌大輔氏も見立ては同じ。日銀の次期総裁候補である植田和男氏が国会の所信聴取で金融政策の修正を急がない姿勢を示したこともあり、日米金利差の縮小を見込んだ円買い・ドル売りはさほど強まらないと判断する。年央から円キャリー取引が次第に活発になり、「年内に140円台まで円安が進む」とのシナリオを描く。

昨年の急激な円安局面を経ても、なお円高に転じないとみる背景には、巨額の貿易赤字に伴う需給面からの円売りもさほど減らないとの見立てがある。

1月の貿易統計によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3兆4966億円の赤字で、比較可能な1979年以降で最大になった。市場は当初、輸入物価の高騰に伴って膨らんだ貿易赤字も世界的なインフレが収まるにつれて減少に転じるとみていたが、インフレ圧力が長引くのであれば、話は変わる。

現在は昨年10月の150円台よりも円高になっており、輸入に必要な円売りも減ると考えがち。だが佐々木氏は「昨年の円相場の平均値は130円ほどで、現在はそれよりも円安。年間を通して考えると、貿易赤字が劇的に減る可能性は小さく、需給要因も引き続き円安材料として働きやすい」とみる。

波乱材料はインフレ長期化に伴う米国のリセッション(景気後退)リスクだろうか。米国の利上げ局面が長引くほど、景気抑制圧力も強まり、その後の米国経済に深刻な打撃を及ぼすリスクをはらむ。浮上する140円説の裏側には、その後の急激な円高・ドル安リスクも潜んでいると考えた方がいいのかもしれない。

(編集委員 小栗太)

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