実績向上促し賃金上げ
政府は企業が運営する年金の改革に着手する。まず運用成績を一般に公開することで、企業年金の予定利率(総合2面きょうのことば)の引き上げを促す。専門性の高い人材を登用し高度な運用を目指すほか、運用効率の低い中小企業による年金の共同運用化も検討する。企業の賃上げと80兆円にのぼる年金資産の運用高度化を両輪に、生涯賃金の引き上げにつなげる。
首相官邸が主催し、各省庁が参加する「新しい資本主義実現会議」の下に「資産運用立国分科会」を設置し、4日から議論を始める。年末までにまとめる資産運用立国プランに結論を盛り込む。
企業年金は国民年金(基礎年金)や会社員が加入する厚生年金に上乗せする私的年金だ。制度が複雑でわかりにくい面もあり、受取額を把握していない加入者も多い。制度を運営する企業側は財政状態を維持するため安全志向が強く、運用成績に対する加入者への意識も乏しいとされる。
米英は説明責任の一環で企業年金に運用成績の開示を義務づける。
米国は法定開示書類として運用成績を当局に提出する。母体企業が公開しているほか、労働省のホームページでも各企業年金の決算情報を閲覧できる。開示ルールもあり、年金間で開示内容を比較しやすい。
英国では年金監督庁の監督下で企業年金が自ら運用成績を開示している。
日本では企業が給付額を約束して運用する確定給付型年金(DB)が厚生労働省に運用成績を報告しなければならない。ただ一般には公開していない。米英のように運用成績を容易に比較できるようになれば、成績の見劣りする年金運営者に対し加入者が改革を促すきっかけとなる。
企業年金は運用益で給付を充実させるしくみだ。資産運用会社に運用を委託し、企業統治(ガバナンス)に問題があったり業績が長期低迷したりしている企業に注文をつける機関投資家の一翼を担っている。
ただし投資先との建設的な対話を促す原則「スチュワードシップ・コード」を導入する年金基金は60程度にとどまっている。企業年金の運営は人事や労務出身者が担うことが多く、金融や運用の知識・経験が豊富なプロ人材をあてている企業は少ない。