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パウエル氏講演「驚き与えず」「タカ派的」 専門家の声

日経新聞より引用

米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は25日、米西部ワイオミング州で開かれたジャクソンホール会議で講演し、「適切ならさらに利上げする用意がある」と述べた。講演内容ににじんだタカ派的なトーンの解釈や注目点について、専門家に聞いた。

利上げメッセージ、昨年より弱く

金融調査会社フォワードボンズのチーフエコノミスト、クリストファー・ラプキー氏

講演内容はパウエルFRB議長が冒頭で言及したように「昨年とメッセージは同じ」だったが、市場の状況もパウエル氏の利上げへの姿勢も昨年と大きく異なる。昨年は政策金利はまだ2.5%で、あれから2倍以上になったことを踏まえれば同氏のメッセージは外見は同じでも、その意味合いや強さは同じとは言えない。

パウエル氏が何度も言及した個人消費支出(PCE)コア物価指数は6月時点で前年同月比4.1%上昇と米連邦公開市場委員会(FOMC)メンバーが今年10〜12月期の予想としている3.9%まであと少しだ。パウエル氏が7月のFOMC後の記者会見で表明したように、利上げの先行きはますますデータ次第であり、政策金利の到達点について政策当局が明確に言える状況ではなくなった。

FRBは9月に利上げをするか見送るか大きな決断を迫られている。パウエル氏がFOMCメンバーに9月の利上げが議論の対象になっていることを今日の講演で訴えたかったのだとしたら、その目的はうまく果たせなかったといえる。利上げは「議論の対象(on the table)」というよりは「議題から外されていない(not taken off the table)」という、消極的な姿勢だったからだ。

金利先物市場の動きを見る限り、市場関係者もそのように受け取ったようだ。年内の利上げ見通しはパウエル氏の講演後も大きく変わらなかった。株式相場が昨年のジャクソンホール会議直後のように急落しなかったのはそのためだ。

次回9月下旬のFOMCでの利上げがあるかどうかを占う上で、今後重要な指標は9月1日発表の8月の米雇用統計と13日発表の8月の米消費者物価指数(CPI)だ。

(聞き手はニューヨーク=伴百江)

発言内容、市場に驚き与えず

米サスケハナ・インターナショナル・グループのデリバティブ戦略共同責任者、クリス・マーフィー氏

FRBのパウエル議長の講演は市場参加者の多くが予想していた通りの内容で、市場を驚かせることはなかった。利上げ打ち止めも利上げ継続も保証しなかった。基本的に必要であれば利上げをすると言っただけで、必要でない限り利下げを始めるわけでない。

2022年のジャクソンホール会議の講演で株式相場が急落したのは、金融緩和への転換に対する過剰な期待が当時の市場にあり、それを排除する必要があったからだ。対照的に現在はそのような期待感は薄い。今回の講演を受けても株式相場の下値は堅かった。

これまでと一貫した発言内容にとどめ、新しい論点は盛り込まなかった点も良かったのかもしれない。市場にノイズとなるため、多くを語りすぎるのもリスクの一つだと思う。

講演の途中から株式相場の値動きはやや荒くなったが、多くの市場参加者が夏休みをとっており薄商いだったからにすぎない。売買代金は直近数週間の平均より少ない状況だ。休暇を中断して聴いた市場参加者は、講演内容に驚きがなかったためにすぐに休暇に戻ったことだろう。

目先の関心は来週発表の経済指標に移る。9月1日発表の8月雇用統計と、8月30日発表の4〜6月期の国内総生産(GDP)改定値は、9月の利上げ有無を予想するうえで大きなヒントになるだろう。

注目指標をきっかけとする相場下落リスクに備えるため、オプション取引を組み合わせたヘッジ戦略を推奨している。具体的には足元の株価水準より少し低い権利行使価格のプット(売る権利)を買い、さらに低い水準の権利行使価格のプットを売る。ヘッジ費用を抑えながら、リスク軽減を狙う。

(聞き手はニューヨーク=竹内弘文)

予想よりややタカ派的 行間読んだ市場

米CFRAのチーフ・インベストメント・ストラテジスト、サム・ストーバル氏

FRBのパウエル議長の講演は「自分たちは正しいことをしている」と市場に伝えるものだった。昨年の講演で市場に潜在的な痛みを警告したことも、積極的な利上げをしたことも正当化した。

FRBはあくまで(食品とエネルギーを除いた)コアのPCE物価指数に注目している。したがって、CPIの全体の上昇率が低下しても「(インフレ抑制の)プロセスは長い道のりだ」ということを思い出させる内容だった。

9月のFOMCの前に金融政策の方向性を左右する様々なデータが出るまで、目新しい内容はもともと期待していなかった。市場はパウエル氏がバランスの取れた発言をすると期待していたので、予想よりは少しタカ派的な講演だった。

結果的に市場は行間を読んだ。あと1回の利上げを織り込み、インフレは収まりつつあるので心配ないとして、いま市場に参加しておく(米国債を購入する)のがベストだと考えたのだろう。それで、(講演後に)一度上がった長期金利が低下した。依然として金融政策には不確実性があり、市場のボラティリティーはしばらく高いままとみられる。

(聞き手はニューヨーク=大島有美子)

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