「ミセス・ワタナベ」と呼ばれる外国為替証拠金(FX)取引を手掛ける日本の個人投資家が2022年、従来のイメージと異なる取引を繰り返していたことが日銀が9日公表したリポートで浮かび上がった。
これまで「相場に逆張り」「高金利の外貨で運用益を狙う」というイメージが強かったが、歴史的な円安が進み、相場の流れに沿った「順張り」取引が増えた。世界の個人関連取引の約3割を占める日本勢の変容が相場変動を増幅した可能性がある。
日本の個人による22年のFXの取引高は1京2173兆円と初めて1京円を超え、過去最大だった。米利上げによる日米金利差の拡大で22年10月には一時、1ドル=151円台と約32年ぶりの安値を付けた。「ドル買い・円売り」から「ドル売り・円買い」を引いた個人のネットポジションはこの間、ドル買い・円売りに大きく傾いていた。
日本の個人は相場の流れに逆らう「逆張り」主体として知られる。ただ、相場の急速な変動を受けて「既往ポジションの損切りや、新規の順張り取引を通じてドル高・円安方向での相場変動を増幅させた可能性が示唆される」(日銀)。
金利差収益を狙う「キャリートレード」中心とされてきた取引手法も変化している。22年の取引高は12年の1689兆円から7.2倍に拡大した。一方、金利収入を得るため日をまたいで保有する建玉の伸びは2.1倍にとどまった。
日中の回転売買の活発化が取引高を押し上げた可能性が高い。日銀はミセス・ワタナベが「短期間で高頻度の売買を積み重ねる『ミニッツ・トレーダー』として存在感を高めた」とみている。
相場のボラティリティー(変動率)上昇で、キャリートレードの妙味が低下したことが背景にある。ドル円相場の日中値幅が1円を超えた日が、22年は全体の約6割に達していた。
FX会社の競争が激化し手数料にあたる売買時のスプレッド(売りと買いで使うレートの差)が低位で推移していたことも回転売買を促した。