通販サイトを見て「米国のミステリー小説を英語で読むのが今年の目標だったけど、お正月にサイトを見たときより本が値上がりしている」と首をかしげます。幸子が「1月より円安になったせいじゃないの」と声をかけます。
米国で本の値段は変わっていないのに、日本円で買うと以前より高い金額になる。1ドルに対して円がいくらかという為替相場が変動したせいなのか。2021年のお正月は1ドル=102円台だったけれど、今は1ドル=110円くらい。円の数字が大きくなると「円高」でなく「円安」。
米ドルという通貨を日本円で買うときの値段が102円から110円と高くなった。逆に言えば円を米ドルで安く買えるようになった。だから「円安・ドル高」になる。
お正月に比べて円安になった理由はなんだったかな。
大きな原因は、1月から3月にかけて米長期金利が上がったことね。一方で日本では長期金利が上がらなかったので、日米の金利差が開いた。
金利が低い日本の円より金利が高い米ドルの方が、受け取れる利息が多いからよ。金利差が開くと円を売って米ドルを買う方がより有利に運用できるので、米ドルを欲しい人が増える。需要が増えた米ドルを買うにはより多くの円が必要になるから円安・ドル高になるの。米長期金利の上昇の背景は、景気回復への期待ね。ニッセイ基礎研究所上席エコノミストの上野剛志さんは「為替相場に影響を与える要因の中で、とりわけ重要なのが景気と金利」と話している。
景気と金利にどういう関係があるのかな。
景気がよくなると、過熱して物価が上がりすぎるのを防ぐため、金利を引き上げる金融政策がとられるの。雇用統計などの経済指標を基に「この先そうなるだろう」と市場参加者が期待するので、長期金利は実際の景気回復より早く上昇する。ところが日本は2%の物価目標を目指して長期金利をゼロ%程度に抑える金融政策を日銀がとっていて、少々景気がよくなっても金利が上がらない。このため「日本の事情でなく米国の景気と金利がドル円相場の変動のきっかけになる」と上野さんは言う。
新型コロナウイルス感染拡大の影響でどこの国も景気が悪かったが、回復が早い国の通貨が強くなるのかな。
みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔さんは「ワクチン接種が早く進んだカナダドルや英ポンドは経済が再開して景気が上向くことを期待され、年初から上昇している」と指摘する。米国も21年末にかけて米連邦準備理事会(FRB)が景気回復の兆しを受けて資産買い入れの縮小(テーパリング)を始めるという見方が強まったため円安・ドル高が進むかもしれないわね。9月21~22日の米連邦公開市場委員会(FOMC)では今後の米金利の見通しが具体的に示されるので注目が集まっている。
日本で低金利がこのまま続けば、将来も円安かな。
替相場は金利だけで決まらないから、そうとは言えない。日本は政府や企業、個人が外国に持つ資産から負債を差し引いた対外純資産が世界一多いでしょ。世界最大の債権国である日本の通貨は信用できて安全だと考えられ、経済や政治で国際的に大きな危機があると買われやすい面がある。
貿易などの取引でも通貨が必要になるな。
例えば日本の製品を米国に輸出すると、代金は普通は米ドルで支払われる。でも製造した企業は日本で社員に賃金を払うために、受け取った米ドルを円に変えなくてはならない。こうしたことから貿易黒字が大きい国の通貨は中長期的に高くなる傾向があるの。貿易だけでなく対外投資で利子や配当を外貨で受け取る場合も、そのまま外貨で再投資されることも多いけれど一部は自国通貨に変えられる。「貿易や投資といった対外取引をまとめた経常収支で日本は黒字が続いており、円相場を支える一つの要因と考えられる」と、上野さんはみている。
日本より金利が高い国の通貨で預金すればお年玉貯金が大きく増えると期待したけれど、単純にはいかないね。
利が高い国の通貨は魅力的にみえるけれど、長期的には下がりやすいことには注意したいね。高金利の国は一般に物価上昇率も高い。物価が上がると、同じ金額を持っていても今年は買えたモノが来年は買えなくなってしまう。つまりモノに対してお金の価値が下がる。物価上昇率が高い国の通貨は価値がどんどん下がっていくので、長い目でみれば物価上昇率が低い国の通貨を持っていた方が、多くのモノを買える。
お金は最終的にはモノやサービスを買う手段だ。価値が下がっていくのは困るな。
物価上昇率を比較して計算した理論的な為替相場を購買力平価というの。購買力平価に基づくと、物価が上がらない日本円は長期的に強くなりやすいと考えられる。日米の物価上昇率を基にした購買力平価と実際の為替相場を比べると、長期的に円高・ドル安の傾向が一致しているよ。ミステリー小説のように様々な手掛かりから為替相場を読み解きたいね。