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FRB議長に成り代わるイエレン氏 バブル再燃を警戒?

日経QUICKニュース(NQN) 編集委員 永井洋一

預金保険の上限引き上げは「検討していない」――。イエレン米財務長官が22日に語ったこの一言が同日の米株式相場の下落を招いた。発言の裏側にどのような意図があるのか。「投資家よ、バブル再燃の夢から目を覚ませ」という叱責だろう。

市場の楽観論を一蹴

欧州大手銀UBSによる同クレディ・スイス・グループ救済買収をきっかけに前週末から22日の高値まで約900ドル上昇していた米ダウ工業株30種平均は、22日の通常取引終了までのわずか1時間あまりで700ドル以上帳消しにした。株価チャートにあらわれた大幅な「陰線」は23日以降の下落を示唆する。

イエレン氏は、21日には破綻したシリコンバレーバンク(SVB)などの預金を全額保護した措置を、ほかの金融機関にも適用する可能性を示唆していた。それを市場は「債券の評価損で自己資本が毀損する銀行はSVB以外にはないというメッセージ」と手前味噌に受け止めた。

金融行政は銀行危機を税金で救済する「Too Big to Fail」にはもう戻らないとの前提に立った場合、さらにSVBのようなケースが増えると想定されるのであれば、イエレン氏が全額保護を約束することなどどだい無理だからだ。

ところが、イエレン氏はわずか1日でこうした市場の楽観論を一蹴した。21日の発言は米国銀行協会、22日は上院公聴会と「場所」の違いはあるが、それでも預金保護の強化で銀行経営が再びモラルハザードを起こし、バブルが再燃することへの懸念は強いのだろう。

インフレ制御の鍵は財政に

なぜか。新型コロナウイルス禍で繰り返した巨額の財政支出が超過需要の原因であり、インフレの元凶であるならば、その責任と対応策はもはや米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長ではなく、イエレン氏にあるからだ。つまりインフレ制御の有効策は金融引き締めではなく、財政支出の削減や増税ということになる。

そう読み解くヒントはFRBが22日公表した経済・政策見通し(SEP)にある。政策指標のコアPCE(個人消費支出)物価指数は24年10〜12月期の中央値が前年比2.6%上昇に対し、24年末の政策金利は4.3%。2%の物価目標に到達しないにもかかわらず、利下げ転換を見込んでいる。グローバルマーケットエコノミストの鈴木敏之氏は「パウエル議長はもはやインフレ退治を諦めているのではないか」とみる。

物価と金融システムの安定というFRB議長の使命は、いまや財務長官へと託された感がある。当然、市場はパウエル氏よりもイエレン氏の発言に注目することになる。

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