2025年の最重要イベントは年初に訪れる。トランプ氏の米大統領就任だ。トランプ氏はかねて1月20日の就任初日に不法移民の取り締まり強化と石油・ガスの採掘拡大、中国やメキシコ、カナダへの関税引き上げを実行に移すと主張してきた。
エネルギー価格が下がればインフレの抑制要因になるが、移民取り締まりと関税は物価高と米景気の減速に直結する。日本貿易振興機構(ジェトロ)などの試算では、関税引き上げは27年の米国の国内総生産(GDP)を1.1%押し下げる。
野村証券の吉本元シニアエコノミストはロシア、ウクライナ情勢について「両国とも停戦のメリットがない」と指摘し、消耗戦が続くとみる。トランプ氏が停戦を巡って「取引」を持ちかける可能性はあるが、交渉が成立するためのコストを米国が負担するとは考えづらい。米国がウクライナ支援を圧縮すれば欧州に負担が回る。
24年は世界で国政選挙が続いた。25年で世界的にみても重要な選挙の1つが7月の日本の参議院選挙だ。少数与党となった自民党は所得税非課税枠の「壁」を巡って国民民主党との応酬が続いている。
25年度予算案の成立を巡り自民党内では日本維新の会との協力も模索する。一方、世論調査では石破茂内閣の支持率は低下が続き、政党支持率では国民民主党が立憲民主党を上回った。参院選でも自民党が議席を大きく減らせば石破内閣の存続は難しさを増す。
政局を巡っては韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の弾劾訴追案が国会で可決された。憲法裁判所は可決から180日以内に尹氏の罷免の可否を判断する必要がある。仮に新政権が発足した場合、日本との関係改善を重視する現在の姿勢に変化が生じかねない。
ドイツでは2月23日に連邦議会(下院)選挙を実施する。保守陣営のキリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)が支持率で首位に立つが、単独過半数は難しく新政権が指導力を発揮できるかは疑問符がつく。
日銀の利上げ時期、頻度も大きなテーマだ。市場では25年1月を軸に、遅くとも春までに利上げがあるとの見方が大勢だ。その後は3月に控える春闘の集中回答日など企業の賃上げペースを見定めることになる。
24年11月の消費者物価は生鮮食品を除く総合で前年同月に比べ2.7%上昇した。インフレを抑えるには利上げが不可欠だが、米国の緩やかながら利下げを続ける中では為替相場の急変動を招く可能性がある。
ホンダと日産自動車は経営統合に向けた協議を開始した。26年8月の持ち株会社設立を予定する。25年10月末に控えるジャパンモビリティショー(旧東京モーターショー)はその中間地点として協業の具体策を打ち出せるかが焦点となる。
日産は販売不振による現金の流出に苦しんでおり、改善が見られなければ市場は統合破談に向けた圧力を強めかねない。日産への経営参画に意欲をみせる台湾電機大手、鴻海精密工業が株主により有利な条件を提示するシナリオもあり得る。
同時に、こうした市場の圧力が企業に変革を促す事例は以前より大幅に増えている。ピクテ・ジャパンの市川真一シニア・フェローは「株式持ち合いで守られなくなった企業がどう動くかは25年の株式市場の大きなテーマだ」と話す。
世界の分断さらに インフレへの備え重要
ピクテ・ジャパン シニア・フェロー 市川真一氏
トランプ氏が主張する高関税政策は、1929年の世界恐慌を受けてフーバー大統領が制定したスムート・ホーリー法と類似する。関税率を引き上げて国内産業を保護する狙いだったが、各国が高関税で対抗し恐慌はかえって深刻になった。不法入国の取り締まり強化と相まって、国際的な分断は一段と進む。
世界経済のブロック化は物価高を招きがちだ。ウクライナや中東など地政学的なリスクも合わせて考えると、投資家にとってはインフレにどう備えるかが重要になってくる。
日本株は大切な選択肢であり、ここでは2つの視点を提起したい。1つは、カナダの流通大手アリマンタシォン・クシュタールによるセブン&アイ・ホールディングスへの買収提案にみられるように、日本企業を巡る環境が劇的に変化しているという点だ。
セブン&アイは資本効率が低い企業の象徴でもあった。クシュタールは自己資本利益率(ROE)が20%ほどもある。強いのはどちらか。円安もセブン&アイが割安にみえる一因だ。
日本企業全体でみれば持ち合い解消が進む。安定株主を失った上場企業の取り得る手は限られる。ROEを上げるか、非公開化に踏み切るか、高く買ってもらうかだ。企業価値を上げなければならないという経営者の思いは切迫している。
2つ目は日本の製造業の未来を必ずしも楽観視していない点だ。バブル崩壊後、日本企業は生産性が低下したにもかかわらず、雇用を守り事業の継続を優先してきた。研究開発や設備投資は後回しになり競争力低下を招いた。
金融緩和も弱い日本を温存した。経済政策は問題を先送りするためにあるのではない。淘汰は避けられない。政策が経済の新陳代謝を促す方向にシフトしていくかを注視している。
米国のイノベーション 移民政策が左右
野村証券金融経済研究所 シニアエコノミスト 吉本元氏
ロシアのウクライナ侵略は、ウクライナ劣勢のまま戦闘が続くとみる。米大統領に就くトランプ氏は停戦を持ちかけるはずだ。非武装地帯の設定と北大西洋条約機構(NATO)へのウクライナ加盟の先送り、軍事支援継続などの案が伝わる。
ウクライナが提案をのむメリットは乏しい。ロシアの占領を認めることになる上、停戦を破るリスクもある。ロシア軍の接近を避けたい欧州はウクライナ支援を継続するだろう。ロシアと貿易を続ける中国やインドに二次制裁を課す可能性もある。
トランプ氏が主導権を握れるのは2026年の中間選挙までの2年間ほどではないか。大統領職と上下両院の多数を共和党が占めるトリプルレッドに隠れているが、下院議席数は22年の中間選挙を下回る。共和党内に反トランプ派も存在する。
支持をつなぎ留めるためトランプ氏は大統領令で実行できる公約に傾斜する可能性がある。関税や移民政策が該当するが、インフレを誘発しかねない。そうなれば、もう一つの公約である物価抑制にも支障を来す。
米テック企業は留学に来た優秀な人材を雇い入れてきた。移民政策によってはエンジニアの供給源を失う。米国を強くするイノベーションにとり不利だ。
中国は輸出主導で成長してきたが、主要国との関係悪化が影響し始めている。通商摩擦を解消しなければ景気を立て直せないが、その兆しは見られない。通商と安全保障を両立するアイデアが乏しいのではないか。
25年に大掛かりな財政出動を志向していると見られるが、抜本的な対応には踏み込んでいない印象だ。不良債権の回収の肩代わり、弱った金融機関への資本注入など必要な手術を避けている傾向が見受けられる。
張勇祥が担当した。