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「強すぎ」米利下げ期待に波乱の芽 雇用統計で相場急変も

日経新聞より引用

米国が年内に合計1%以上の利下げに動くと金利先物市場が織り込んでいる。7月の米雇用統計が利下げ観測を強め、急激な円高・ドル安や世界的な株価調整につながった経緯が背景にある。もっとも、市場関係者の間ではこの織り込みに「行き過ぎ」との声が出ており、修正が加われば相場の急変動を起こしかねない。今週末6日発表の8月の米雇用統計が、その試金石となる。

米金利先物の値動きから米連邦準備理事会(FRB)の政策金利動向を予想する「フェドウオッチ」によると、FRBが年末までに足元から1%以上の利下げをする確率は8月末時点で約7割となっている。

年内の米連邦公開市場委員会(FOMC)は残り9月中旬、11、12月の3回だ。「年内1%以上の利下げ予想」とは、2020年3月以来となる9月の利下げを皮切りに年内残り3回全ての会合で通例となる0.25%の利下げをしたうえで、どこか1回の会合で2倍の0.5%の利下げになると織り込んでいる。

市場は「年内1%以上の米利下げ予想」

みずほ証券の上家秀裕シニア債券ストラテジストは「もし何らかの悪い数字の指標が出たら、どこかの会合で0.5%の利下げに踏み切るのではないかとの警戒を映している」と解説する。

ちなみにFRBによる直近の予想は、6月に公表した経済見通し(SEP)に含まれるFOMC参加者による政策金利見通し(ドットチャート)で、年内は0.25%の1回の利下げが適切となっている。

大幅利下げが織り込まれたきっかけは、8月2日発表の7月の米雇用統計だ。失業率が4.3%と市場予想に反して上昇し「サーム・ルール」に触れたことが注目された。サーム・ルールは直近3カ月間の平均失業率が過去1年の最低値を0.5ポイント上回ると、景気後退が始まった可能性が高いという経験則だ。

7月の雇用統計発表後には、外国為替市場で急速な円高・ドル安が進行した。8月1日時点で1ドル=150円台の場面もあった円相場は、週明け5日には一時141円60銭台まで9円近く急騰した。株式市場では円急伸の逆風が直撃した東京市場で5日の日経平均株価が前週末比4451円安と過去最大の下げ幅を記録し、米国など他の主要国でも株価が急落した。

もっとも、年内1%以上の米利下げの織り込みは過度ではないかとの声もある。英バークレイズは8月29日付のリポートで「市場が織り込む幅の利下げは正当化されない」と指摘。行き過ぎた利下げ期待は長期金利のリスクプレミアムを高めると懸念を示した。

米バンク・オブ・アメリカも年内のFRB利下げは0.25%を2回と予想する。同社は「米国の経済活動は堅調でインフレ率もFRBの想定をわずかに上回る程度であることから、大規模な利下げや毎回会合での利下げなどの必要はない」とみる。

外為どっとコム総合研究所の神田卓也調査部長は「FRBが一度に0.5%利下げするのは景気後退に陥る局面だ」としたうえで「7月の米雇用統計以降に発表された7月の小売売上高などの米指標は米景気の底堅さを示しており、景気は減速しつつも後退はしないだろう」と話す。

実際、米国株は利下げ観測による景気下支え期待もあって、米ダウ工業株30種平均が過去最高値を更新している。

もし今の米利下げの織り込みが行き過ぎで、これからその度合いが変化すれば為替や株式相場の波乱要因になり得る。その試金石となるのが今週末6日発表の8月の米雇用統計だ。FRBのパウエル議長が足元で労働市場を重視する姿勢を鮮明にしており、市場の注目度は極めて高い。

ロイター集計の市場予想は、8月分の非農業部門の就業者数が前月比16万5千人増と、7月実績(11万4千人増)よりも増えるとみている。失業率は4.2%と7月の4.3%からは小幅に改善するとの予想だ。

8月の米雇用統計の市場反応は

市場予想を上回る結果となれば、あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストは「年内の米利下げの織り込みが0.75%方向に縮小し始める」と読む。そのうえで、前週末に1ドル=146円台だった円相場は「足元で3.9%近辺で推移する米2年債利回りが上昇して4.0%を超えてくると、一時的に150円程度まで円安が進む余地がある」とみている。

株式市場では「利下げ幅が縮むことよりも、米景気不安が和らぐことが好感される。米国株は業績相場に入って上昇を続ける」(東海東京インテリジェンス・ラボの平川昇二チーフグローバルストラテジスト)との見方が多い。

日本株には円安進行が二重の追い風となりそうだ。日経平均は2日に3万8700円と前週末から小幅に上げて終えた。仮に円高に振れても米国株が堅調であれば、日本株が年末まで独歩安となる可能性は大きくない。

PGIMジャパンの鴨下健株式運用部長は「過去の米利下げサイクルを振り返ると、円高は利下げ局面の『最初の利下げ』までに一番進みやすい。日経平均は9月に3万6000円程度まで下落余地があるが、年末にかけては4万円付近まで回復しそうだ」とみる。

一方、8月の米雇用統計が市場予想を下回った場合はどうか。オーストラリア・ニュージーランド銀行の町田広之ディレクターは「日米金利差から見ればまだ5円程度円安水準にある」とし「弱い指標を材料に1ドル=140円方向に円高が進む可能性もある」と指摘する。

米景気動向への注目度が高い株式市場では「二番底」を探る展開も想定される。平川氏は「景気後退に突入すればFRBがどれほど利下げしても株価の下落は止められないことは歴史が示している」と話す。日本株にとっても、もちろんマイナス材料となる。

8月の雇用統計の発表後も、8月の米消費者物価指数(CPI)発表など、米利下げの織り込み度合いに影響を与えうる重要イベントが相次ぐ。特に9月17〜18日に開かれるFOMCでは、その結果とともに新たなドットチャートも公表される。米利下げの織り込み度合いの変化は当面、相場を上にも下にも大きく揺らすリスクとして横たわる。

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