日銀が米国との関税協議の動向に神経をとがらせている。ドル高是正を目指す米国が利上げ路線の後ろ盾となる可能性もあるが、関税による経済の下振れを懸念する見方が根強い。日銀は4月30日・5月1日の金融政策決定会合で関税の影響を踏まえた経済・物価の見通しを示す方針だが「近年にない難しさ」との声が漏れる。
「混沌としていて、きれいに整理できる状況にない。情報収集を進める」。ある日銀関係者は17日、トランプ米大統領らと赤沢亮正経済財政・再生相との関税交渉後にこう語った。
日銀は5月会合では利上げに動かず、当面は状況の推移を注視する公算が大きい。日銀内からは「いまは状況をよく見たい」との声が上がる。
関税協議の17日の初会合では為替問題は議題に上らず、4月下旬の加藤勝信財務相の訪米時に話し合う見通しとなった。日銀は政府間交渉を見守る立ち位置で、日銀関係者は「完全に受け身だ。出たとこ勝負で考えるしかない」と状況を注視する。
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トランプ氏は日本が通貨安に誘導していると批判してきた。対日交渉を主導するベッセント財務長官は米国時間の9日、最近の円高傾向を「自然な流れだ」と指摘し、日本経済の強さと日銀の利上げ方針を理由に挙げた。
利上げは円安の要因となる日米の金利差の縮小につながるだけに、日銀に利上げを促しているともとれる。日銀内には米国から利上げを促された場合、「どう考えるか、難しい。(政府も)無視はできないだろう」との見方がある。

ただ日銀の金融政策運営は「物価の安定」が目的だ。米国から要請があったとしても「(利上げの理由として)物価を抜きにした説明はできない」「海外からの利上げ要請に応じたというのは理屈が通らない」と警戒する声も聞こえる。
政府側である財務省幹部は「関税で景気が悪くなるかもしれないのに、利上げは難しいのではないか」との見方を示す。
市場では日銀の早期の利上げは遠のいたとの見方が広がっている。東短リサーチと東短ICAPが算出した市場が織り込む利上げ確率をみると、18日時点で5月会合の利上げ確率は1%だった。6月が11%、7月が16%となっているが、次の利上げが10月より後になるとみる確率も約半分にのぼる。
5月会合への関心は、政策変更よりむしろ日銀が物価や経済成長率の見通しを示す「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」に寄せられる。前回公表は1月だった。今回は年度替わりで、27年度の見通しも初めて示すことになる。
日銀は前回の展望リポートまで26年度に物価上昇率が2%近傍に収束する構図を描いてきた。実質GDP(国内総生産)の前年度比増減率は26年度で1%と、潜在成長率を上回る堅調な経済を想定していた。
しかし、こうしたシナリオも米国との関税交渉で狂いが生じそうだ。関税は経済に「下押しの圧力を働かせる」(植田和男総裁)との見方で一致しており、25年度以降の経済成長率を下方修正する可能性が大きい。国際通貨基金(IMF)が近く公表する世界経済見通しも参考にする構えだ。
一方、物価に関しては「上下両方向の影響がある」(植田総裁)。景気が悪化すれば一般的に物価は下がる方向だが、供給ショックが起これば上振れに作用する。「メインシナリオがわからない」「ギリギリまで見極める」。展望リポートの作成が大詰めとなるなか、日銀関係者は頭を抱える。
「予断を持たずに経済・物価・金融情勢を点検したうえで物価安定という自らの使命を果たしていきたい」。植田総裁は17日の国会答弁でこう強調した。
近く開催される20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議に植田総裁も出席するとみられており、各中銀総裁と会って話を聞いたうえで植田総裁が世界経済の先行きをどう捉えるのか、記者会見などでの発信が注目される。