投資情報ななめ読み

長期金利、消えぬ急低下リスク 根雪のように残る空売り

日経新聞より引用

国内債券市場で長期金利が大きく低下(債券価格は上昇)している。欧米で金融システムを巡る不安が高まり、安全資産とされる国債に買いが集まったためだ。黒田東彦総裁のもとで日銀が大規模な金融緩和策の修正に動くとして金利上昇を予想したポジション(持ち高)に傾いていた投資家はいったん反対売買を迫られた。だが、日銀の新体制を見据えて債券ショート(空売り)は根雪のように残り、金利が一段と急低下するリスクは消えていない。

相次ぐ米銀行破綻の余波が残る15日、海外市場ではスイス金融大手のクレディ・スイス・グループの株価が急落した。投資家心理が弱気に傾くなかで米長期金利は一時3.38%と2月上旬以来の水準に低下。その流れが及んだ16日の東京市場では長期金利の指標となる新発10年債利回りが一時0.270%と、前日に比べ0.050%低下するなど幅広い年限の国債が買われた。

ここ数日間で国債利回りは大きく切り下がっている。日銀が許容する変動幅の上限である0.500%に張り付いていた9日と比べると長期金利は0.230%低下したほか、新発20年物国債利回りは同じ期間で0.260%下がった。日銀が9〜10日の金融政策決定会合で大規模緩和を維持したところに、欧米の金融システム不安の高まりを背景にした米利上げ観測の後退も重なり「債券ショートが一気に巻き戻された」(国内証券の債券トレーダー)のが主因だ。

想定外の事態が相次いだが、日本の金利上昇を見据えるポジションが引き続き存在しているとの声もある。みずほ証券の丹治倫敦氏がその傍証とみるのが、日銀が市場参加者に保有する国債を一時的に貸し出す「国債補完供給」の利用額だ。

空売りのためには売却する国債を借りる必要がある。現金担保付き債券貸借取引(レポ)などで市場から国債を調達する方法もあるが、日銀が発行残高の多くを保有するなかでは国債補完供給が調達経路の1つとなる。そのため、国債補完供給の利用額はショートの規模をイメージするうえで参考になる。

国債補完供給の利用額は14日時点で約4兆7800億円だった。今年最高だった1月17日(約8兆6600億円)をピークに減少傾向にあるものの、年初の約3兆3600億円は上回っている。年初来で極端に減っているわけではなく「ショート筋のポジションが相当程度残存している可能性を意識しておくべきだ」(丹治氏)という。

投機筋の投資行動を分析するJPモルガン証券の高田将成氏は「商品投資顧問(CTA)が債券先物や金利スワップで構築する金利上昇を見込むポジションのうち、昨年12月以降に積み上がった分は反対売買が進んだ」と指摘。一方で「日銀の政策修正観測を背景とする根雪部分の債券ショートは保持している」と推察する。

さらに高田氏は「市場で日銀のイールドカーブ・コントロール(長短金利操作、YCC)撤廃の思惑が剝落するなどして10年物の翌日物金利スワップ(OIS)が0.4%台前半まで低下すれば、CTAは根雪部分の債券ショートについても買い戻しを迫られる」とも指摘する。足元の10年物OISは0.5%台半ばと距離はあるが、前週末の0.8%台から一気に水準を切り下げたことを踏まえると、欧米の金融環境次第で一段と低下する可能性はある。

日本の金利上昇シナリオの根底にある日銀の金融政策を巡っては、バークレイズ証券が16日付でYCCの対象年限を短期化する政策修正に動く時期の予想を今年4月から今年6月に先送りした。株安とともに金融環境が悪化するなど、不確実性が増している点を勘案したという。

欧米の金融システム不安に端を発した混乱で国内債券市場も「流動性が非常に乏しい」(国内証券の債券トレーダー)といい、突発的な出来事で金利が乱高下するリスクは高まっている。加えて、金融不安が日銀の政策運営にも影響を与えるとの見方が定着すれば、投資家による金利の先高観が後退して急低下を招くかもしれない。

〔日経QUICKニュース(NQN) 田中俊行〕

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