投資情報ななめ読み

金利正常化に円乱高下の壁 日銀シナリオに影

日銀による金利正常化が投機筋の動きによって難しくなっている。7月末の利上げ決定後、為替相場で急激な円安修正が起き、株価は大幅下落した。日銀は物価が見通し通りに推移すれば追加利上げするシナリオを描くが、過去の異次元緩和で積み上がった膨大な「円キャリー取引」の巻き戻しで市場は乱高下しかねない。

日銀は8日、追加利上げを決めた7月30〜31日の金融政策決定会合の「主な意見」を公表した。政策委員からは「適時かつ段階的に利上げしていく必要がある」など今後も追加利上げを求める声が相次いだ。

日銀は経済・物価情勢が見通し通りに推移すれば政策金利を景気を熱しも冷ましもしない中立金利まで戻す方針だ。7月会合では政策委員から中立金利は「最低でも1%程度」との声が上がった。

7月会合後に市場が急変し、8月5日には日経平均株価が過去最大の下落幅を記録した。日銀にとってさらに想定外だったのは、低金利の円を市場で借り、各種資産で運用する「円キャリー取引」の急激な巻き戻しだ。これまでの円安局面でヘッジファンドなどは円売りを仕掛けていたとみられ、円相場は5日に1ドル=141円台をつけ、7月上旬の161円台から20円ほど円高・ドル安が進んだ。

こうした急激な円安修正が大幅な株安を引き起こした。東京証券取引所の売買主体の6〜7割は海外投資家で、その中でも円安・株高のシナリオにかけていた外国の投機筋が持ち高の調整を迫られ、大量の株売りにつながった。円キャリー取引で調達した投機マネーの一部は米ハイテク株などにも向かっていたとみられ、世界的な資産価格の押し下げ圧力にもなる。

米大手ヘッジファンド、ポイント72のアジア経済リサーチ責任者を務めるジョイ・ヤン氏は決定会合直後に「7月の利上げは予想していなかった」と話した。その次は10月で、来春までにさらに1回以上と段階的な利上げを予測した。

米商品先物取引委員会(CFTC)によると、ヘッジファンドなど非商業部門(投機筋)の円売り持ち高は7月2日時点で18.4万枚(2兆3027億円)。過去最大だった2007年6月(18.8万枚=2兆3509億円)以来およそ17年ぶりの大きさに膨らんでいた。

この円売り持ち高が7月30日時点で7.3万枚へと急速に減った。4週連続の縮小で、4週合計の縮小幅(11.0万枚=1兆3845億円)は07年3月中旬(11.4万枚=1兆4331億円)以来の大きさとなった。利上げ決定後に一段と大きく動いた可能性もある。

日銀も今年7月会合直前には「巨大な円キャリーの与える影響が大きい」(関係者)と警戒していたものの「ここまで大規模な巻き戻しが起こる可能性は予測できていなかった」(別の関係者)。日銀の金融市場局は日常的にヘッジファンドと情報交換の場を持ち、政策立案を担う企画局に面会を申し入れるファンドもある。定期的に持ち高(ポジション)などを聞き取って解釈・分析している。

「異次元緩和により実質金利が長らく低位で推移し、歴史的な円キャリー積み上げを助長した。その反動がこの事態だ」。財務省と金融庁、日銀は国際金融資本市場に関する情報交換会合(3者会合)を6日に開催したが、あるメガバンク幹部は当局に意見を述べた。日銀関係者も「長らくの緩和で我々のリスク感覚が鈍った」と顧みる。

日銀が大規模緩和を長期継続したことで、自ら円キャリー取引が膨張する環境を築いてきた。日銀によると、円キャリー取引の規模を反映するとされる、外国銀行在日支店の「本支店勘定(資産)」は、異次元緩和を解除した24年3月時点で13兆5000億円となり、異次元緩和下で約2倍に膨らんだ。特に日米の金利差が意識された22年後半からの膨張が顕著だ。

日銀は8年間マイナス金利を続け、国債市場では過半を保有する。金利は上昇し、国債の買い入れ減額は始まったが、上場投資信託(ETF)や日本の不動産投資信託(J-REIT)の保有分の処理への道筋は立っていない。日銀による約30年の金融緩和によって為替や国債、不動産などにひずみがたまっており、日銀自身による金利正常化の取り組みを縛る恐れが出てきている。

短期トレード向きの「DMM FX」

-投資情報ななめ読み