投資情報ななめ読み

遠くない「日銀上限1%」 国内勢も国債買いに慎重

日経新聞より引用

長期金利が上昇している。日銀が上限を事実上1%に引き上げ、国債を買う力を弱めたためだ。日銀に代わる買い手と期待された国内勢の出足は鈍い。2%インフレの定着を見越し、市場では早くも1%への到達を意識する声が出始めた。

日銀は7月28日、長短金利操作(イールドカーブ・コントロール、YCC)を柔軟化し、10年物国債利回りの上限を0.5%から1%に引き上げた。極めて強力な国債購入策を使う機会は当面なくなり、金利が自由に動きやすくなった。

指標となる新発10年物国債利回りは3日に一時0.655%と2014年1月以来、9年7カ月ぶりの高水準まで上昇(債券価格は下落)した。

市場では長期金利が上がれば銀行を中心とした国内勢が大量の押し目買いを入れるとみられてきた。メガバンクや地方銀行などの国内金融機関(生損保、信託銀行は除く)は今年、短期国債を除いたベースで国債を累計3兆5000億円売り越していた。買い余力は大きいとみられている。

しかし当の国内銀行に話を聞くと、まだ本格的な買いには動いていないようだ。

「邦銀は0.7%近辺で全力で10年債を買いに行くと思われているけれども、いきなりフルスイングなんてできない。もちろん買わないわけではないが、少しずつ売りの持ち高を減らしていくという感覚に近い」

「ストラテジストには0.7%近辺が長期金利の落ち着きどころと言う人が多いけれども、0.6%で買った銀行は0.7%台半ばまで金利が上がれば損切りするところが出てくる。その繰り返しで長期金利は1%をめがけて上がっていく」

国内銀の現場ではこうしたトーンが目立つ。日本でも高いインフレ率が定着する可能性が意識されていることが主因だ。

日本の消費者物価指数(CPI、生鮮食品除くコア)上昇率は15カ月連続で日銀が目標とする2%を上回る。それでも日銀はコアCPI上昇率は24、25年度ともに2%を下回ると予想し、2%インフレの定着はまだとみる。

日銀は物価や経済見通しのプロ集団だ。しかし、BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミストは「自戒も込めて言うとプロほど過去の物価動向に縛られ、物価の急変動期には変化を見誤る。むしろ消費者の体感の方が重要」と説く。

米国では米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が21年8月にインフレを「一時的」と強調したわずか3カ月後に撤回に追い込まれた。この時、消費者の予想インフレ率は5%近くまで上昇しており、追いかけるように実際の物価も上昇の勢いを強めた。

日本でも日銀が消費者に3カ月に一度、1年後の物価上昇率の予想を聞いており、足元は10.5%だ。体感的なもので、水準自体に大きな意味はない。見るべきは方向性で、21年後半ごろから体感的な予想インフレ率が上昇傾向を強めている。

政府の物価高対策の影響があるエネルギーまで除いたベースでみると、物価上昇率は足元で4.2%まで上がった。河野氏はこうした傾向を踏まえ「日本でも2%インフレが定着する」とみる。

インフレ観測が強まった場合、市場の関心が向きやすいのが短期金利のマイナスの解除だ。短期金利は預金金利などに影響する。物価が上がる際、預金金利がほとんどつかないと消費者は時間の経過とともに貧しくなる。政府が景気刺激策に乗り出せば物価はさらに上がりやすくなる。日銀は放置できないとみる市場参加者が増えている。

短期の政策金利上昇が予想されれば、長期金利にも上昇圧力がかかるのが通例だ。ニッセイ基礎研究所の福本勇樹金融調査室長の試算によると、日銀がYCCを撤廃し、マイナス金利政策も解除すると、長期金利は1.1%程度まで上がる。

ある国内銀は「行内では24年1月にもマイナス金利をやめる可能性があると議論しており、国債投資に強気になるのは難しい」と明かす。翌日物金利スワップ(OIS)市場では、24年前半にマイナス金利政策を解除するとの予想が優勢だ。

日銀の植田和男総裁はマイナス金利の解除には「まだだいぶ距離がある」との立場で、長期金利の1%も「念のための上限キャップ」とする。

日銀による昨年12月、今年7月と続いたYCCの修正は、多くの市場参加者の合理的な経済・物価見通しに沿って予想された範囲内だった。市場は再度の政策修正を見込む。一定程度自由な値動きを取り戻した債券市場と、日銀が1%のラインで対峙する日は決して遠くはない。

短期トレード向きの「DMM FX」

-投資情報ななめ読み