イチからわかる 金利と為替の関係
そもそも金利ってなに?
私たちがお金を借りるとき、タダでは借りられません。借りた金額より多くのお金を返すことが一般的です。上乗せした分のお金のことを「利子」または「利息」と呼びます。借りた金額に対してどれくらいの割合で利子が発生するかを示す数字が「金利」です。
利子と利息は基本的に同じものです。借り手側から見て支払うものを利子、貸し手側から見て受け取るものを利息と呼びます。
身の回りには様々な金利があります。住宅ローンやマイカーローン、学生が借りる貸与型奨学金などにもそれぞれ金利が設定され、返済時にその金利に応じた利子を支払うことになります。
金利が上がると利子は増えます。ただ、私たちが受け取るお金が増える場合もあります。代表例が銀行の預金金利です。銀行は私たちの預金を元手に、お金を貸し出すなどして運用します。一歩引いて見れば、私たちは銀行にお金を貸している立場で、銀行から預金に対する利息がもらえます。
金利と為替の関係:お金は金利が低い方から高い方へ動く
金利と為替の関係を考える時に大切な原則が一つあります。それは「お金は金利が低い方から高い方へ動く」ということです。お金とは高いところがあったらすぐ登りたがる、猫たちみたいなイメージですね。
たとえ話で考えてみましょう。日本のA銀行(預金金利=0.1%)と、米国のB銀行(預金金利=5.0%)があったとします。あなたはどちらの銀行にお金を預けたいですか? 利益だけを見れば、1年間に5.0%分の利息がもらえる米国のB銀行の方が魅力的だと言えそうです。
いざ米国の銀行にお金を預けようとすると、米国の通貨であるドルが必要です。円をドルに換えなければなりません。
このように、より金利の高い国でお金を貸せばより多くの収益をえられることから、金利の高い国の通貨に両替したい人が増えます。それがドルならドル高要因になります。低金利の国の通貨は安くなり、高金利の国の通貨は高くなるというのはこのためです。
ニュースで「日米金利差が拡大し、円安・ドル高が進む」という説明がよく登場します。これは、日本の金利よりも米国の金利が高くなると、米国で資産を運用したいと考える投資家の数が増え、円をドルに換える需要が大きくなる、という順序で起きているのです。
政策金利でその国・地域の金利水準を知る
ある国や地域の金利水準が高いか低いかを見分けるのに使う代表的な指標が、中央銀行の定める政策金利です。
中央銀行とは、その国や特定の地域の金融システムの中核となる銀行です。日本では日銀、欧州連合(EU)では欧州中央銀行(ECB)を指します。米国ではFRBを中心に複数の機関が分担して中央銀行の役割を担っています。
中央銀行が金利を上げ下げするのは何のため?
では、中央銀行は何のために政策金利を上げ下げするのでしょうか。それは景気や物価を安定させるためです。
景気が良すぎてあらゆるモノやサービスの値段が急激に上昇しそうな場合には、中央銀行は政策金利を引き上げます。すると世の中の他の金利も上昇し、企業や個人がお金を借りるコストが高くなります。こうして経済活動が縮小し、物価の上昇が落ち着くようになります。
反対に、景気が低迷している場合には、中央銀行は政策金利を引き下げます。すると今度は企業や個人がビジネスを拡大したり何かを買ったりするためにお金を借りやすくなり、経済が活性化。景気が回復しやすくなります。
ところで最近、日米金利差は縮まっているのに円高にならないのはなぜ?
さて、ここまでお金は金利の低い方から高い方へ流れるという金利と為替の関係について考えました。近年の円安・ドル高の進行には、日本と米国の金利水準の差が大きくなったことで、円をドルに換えて米国で資産を運用したいという投資家が増えたことも大きく影響していると説明しました。
ただ、足元では日本国内の金利上昇によって日米金利差は縮小傾向にあるように見えます。日銀は2024年3月に17年ぶりの利上げに踏み切り、マイナス金利政策を解除しました。日本の長期金利も一時1%を超えました。それでも円相場は円高・ドル安方向にはなかなか動きません。どうしてでしょうか。
市場のプロの間では「絶対的な日米金利差がまだまだ大きいことが関係している」との見方が多いです。FRBは新型コロナウイルス対応でほぼゼロにしていた政策金利を、コロナ後に高まったインフレ抑止のため22年3月以降、23年7月まで次々と引き上げました。
結果、24年6月時点の日米政策金利を比べると、その差はなお5%以上あります。FRBはしばらく高金利状態を維持するとの観測も強く、米国の金利が大きく低下する未来も見えていません。
日本の金利が上昇すると、日本で資金を運用する魅力が高まるのは事実です。実際にお金を外国から日本に動かす投資家も増えてくるでしょう。それでも、日本よりも米国の方が圧倒的に金利が高いという状況が続く限り、日本から米国へと向かうお金の動きが多少減ったとしても、円安・ドル高圧力が残り続けそうです。
そもそも金利差以外の要素も見逃せません。みずほリサーチ&テクノロジーズの推計によると、金利差で説明できる為替の動きは足元で半分程度といいます。
例えば「ドルを買いそびれた輸入企業」。24年6月時点では、年初から半年で15円以上円安が進みました。海外の商材を仕入れるために必要なドルが足りない企業は、少しでもドルを安く調達しようと、円安が止まったり、円高に振れたりする場面で円売り・ドル買いの注文を出します。こうした日米金利差とは関係なく為替を取引する企業活動に関わる要因は「需給要因」と呼ばれます。
ほかには例えば外資系企業への支払いがあります。SNSやクラウドなどの分野では、プラットフォーマーと呼ばれる米国の大手企業のサービスが日本で幅広く使われています。ネット広告にかかる費用も含まれます。こうした外資系企業への支払いは最終的には米ドルに交換されます。この規模が、急速に拡大しているのです。
また、2024年に始まった新NISA(少額投資非課税制度)の利用も、円安に寄与している可能性があります。米ドル建ての金融商品(投資信託やETF)を買い付ける人が増えているためです。24年1〜5月の国内投資信託運用会社などによる海外投資は5.6兆円超の買い越しとなり、23年通年の4.5兆円を既に超えました。ドル円市場全体の金額から見ればまだ規模は小さいですが、積み立て方式で買い付ける資金は、文字通り金利差に関係なく着実に「積み上がり」ます。
「金利と為替の関係性」はあくまで原則。実際には、輸出入企業の動きや、国をまたいだお金の支払いなど、複数の要素が綱引きをしています。