【ワシントン=髙見浩輔、ニューヨーク=斉藤雄太】米連邦準備理事会(FRB)は米大統領選の直後の6〜7日に次回の米連邦公開市場委員会(FOMC)を開く。1日に発表された10月の雇用統計を受け、0.25%の追加利下げがより濃厚になった。自然災害など一時的な要因で見極めづらいが、雇用の勢いは減速が続いている。
非農業部門の就業者数は前月比1.2万人増にとどまった。大型ハリケーンや航空機大手ボーイングの大規模ストライキなどが一時的な押し下げ要因になった。10万〜11万人増への鈍化が予想されたが、さらに下回った。
「きょうの雇用統計は我が国の大恥だ」「衰退したのは眠れるジョー(バイデン大統領)と噓つきカマラ(ハリス副大統領)が仕事をしなかったからだ」。共和党の大統領候補であるトランプ前大統領はさっそく攻撃材料に使った。ただ、エコノミストの多くは冷静だ。
米労働省は今回の集計期間の短さを強調した。速報時点での回収率は調査対象の5割弱で10月としては1985年以来の少なさだ。次回の雇用統計は災害の影響がなくなって就業者の増加幅が大きくなりやすい。10月の数字も今後修正される可能性がある。
米ウェルズ・ファーゴのエコノミストは「ハロウィーンは誰でも一度は怖い思いをする権利がある」と冗談を飛ばし、数値を額面通りに受けとらないよう注意を促した。
一方で、今回の雇用統計では8〜9月の就業者が計11.2万人下方修正された。9月は想定を10万人程度上回る雇用増だったが、帳消しになった勘定だ。
企業の求人は減り続けており、一部の業種ではレイオフ(一時解雇)もじわりと増えている。「米国の雇用は堅調だが、減速はしている」。米モルガン・スタンレーのエコノミストは次回のFOMCでこのような従来通りの認識が示されると予想した。
金利先物市場では9月の雇用統計後に一時2割まで強まった11月会合での利下げ休止観測がほぼ消滅した。1日午後時点では0.25%の利下げをほぼ完全に織り込んでいる。直前に大統領選の投開票日があるFOMCは異例だが、結果にかかわらず利下げを継続するという見方が大勢を占める。
米運用大手ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメントのリンジー・ロズナー氏は「FRBはデータの弱さの一部をストとハリケーンという一時的要因のせいとみなすだろう。それでも雇用の軟化は来週の利下げ継続を促すはずだ」と指摘。0.25%の利下げ実施を確実視する。
米金融市場では9月に開いた前回のFOMC後、景気の底堅さや根強いインフレ圧力を示す指標が相次いだことを受け、FRBが利下げを急がないとの見方が広がっていた。
政策金利の動きを反映しやすい米2年物国債利回りは10月末までに0.56%上昇(債券価格は下落)した。1回0.25%の計算で2回分を超える利下げ予想がはげ落ちた格好だ。10月の米雇用統計はこうした利下げ期待の後退を食い止めた面がある。
米調査会社パンテオン・マクロエコノミクスのサミュエル・トゥームズ氏は「雇用統計で11月と12月に利下げを決める根拠は強まった。ただその後の金利の行方は選挙結果次第」と話した。
円は再び153円台、大統領選にらみのドル買い指摘も
外国為替市場では雇用統計を受けて、1ドル=151円80銭台まで円高・ドル安が進む場面があった。発表直前は152円70銭台で推移しており、円が対ドルで1円近く上昇した。非農業部門の就業者数が市場予想を大きく下回ったことが材料視された。
もっともドル売りは長続きせず、再び1ドル=153円台まで円が売られた。オーストラリア・ニュージーランド銀行の町田広之ディレクターは「失業率や平均時給の数字は堅調だったこともあり、次第に雇用の減速がハリケーンやストライキなどの一時的な要因の影響を受けたとの見方が広がった」と話す。
ふくおかフィナンシャルグループの佐々木融チーフ・ストラテジストは「ドルが下落した場面ではすぐに買い戻す動きが広がり、ドル需要の強さが際立った」と指摘する。米大統領選でのトランプ前大統領再選を見越した円売り・ドル買いの動きが背景にあるとの声もある。
あおぞら銀行の諸我晃チーフ・マーケット・ストラテジストは「FRBが11月と12月に0.25%ずつ利下げすれば徐々にドルを売る動きが広がり、年末にかけて1ドル=140円台後半から半ばまでは円高・ドル安が進む余地がある」と予想する。
1日の米ダウ工業株30種平均は前日比288ドル(0.7%)高の4万2052ドルとなった。日本時間2日の大阪取引所の夜間取引では、日経平均先物12月物が前日の清算値と比べ480円(1.3%)高い3万8600円で終えた。
非農業部門の就業者数の増加幅が小さかったことについて、三菱UFJアセットマネジメントの石金淳チーフファンドマネジャーは「ハリケーンなどの影響とみなされ、株式市場ではそれほど材料視されていない」とみる。むしろ米アマゾン・ドット・コムなどの企業決算が好調だったことで「買い安心感が広がった」と話す。日本株については円安進行も支えになるとの見方を示した。
(神山美輝、大越優樹)