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米大手銀、4割増益でも景気減速備え 与信費用が3.8倍

日経新聞より引用

【ニューヨーク=大島有美子】JPモルガン・チェースなど米商業銀行大手3行が14日発表した2023年1〜3月期決算で、貸出金利の上昇で純利益は前年同期比36%の増益となった。各行トップは足元の好調よりも将来の収益環境の悪化に身構え、与信費用を3.8倍に増やした。融資の引き締めで企業業績の悪化が進めば景気を下押しし、和らぎつつある金融不安も再燃しかねない。

シティグループウェルズ・ファーゴを合わせた3行の1〜3月期の純利益は計222億ドル(約2兆9000億円)だった。収益を押し上げたのは、貸し出しと預金の金利差で銀行の収益となる利ざやの改善だ。米連邦準備理事会(FRB)による政策金利の引き上げで貸出金利が上昇する一方、顧客に支払う預金金利は低水準に収まっているためだ。預貸業務による純金利収入はJPモルガンで49%増えた。シティやウェルズも2ケタ増収となった。

シリコンバレーバンク(SVB)など3月に相次いだ米中堅・中小銀の破綻による直接の影響は限られた。大手銀は中堅・中小銀の信用不安の受け皿となっており、JPモルガンの3月末の預金残高は22年末と比べ370億ドル(2%)増えた。市場は預金減を見込んでいたが、SVBなどの破綻後に約500億ドルの新規預金が集まったという。同期間で中堅・中小銀全体で預金を5%減らしたのに対し、大手3行は合計で0.4%減にとどまった。

もう一つの不安材料である保有債券の含み損も、3月以降金利が下がった(債券価格が上昇した)こともあり減っているようだ。JPモルガンが14日開示した資料から算出すると、満期保有債券の含み損は308億ドル(約4兆1200億円)と22年末(367億ドル)から減った。3月末時点の中核的自己資本(CET1)比率は13.8%で、含み損を加味しても約12%と規制要件を上回る。アナリストの分析では、シティやウェルズも十分な比率を保てる。

米銀大手を取り巻く懸念は景気の悪化だ。「リスクの高い業種に対する与信を徐々に引き締めている」とウェルズのチャールズ・シャーフ最高経営責任者(CEO)は話す。FRBの急ピッチな利上げによって米景気の悪化懸念は強まっている。なかでもシャーフ氏が注視するのが融資総額の16%を占める商業用不動産向けだ。空室率の上昇や賃料低下でオフィスビルの採算は悪化しており、融資が焦げ付くリスクが指摘されている。 

融資の焦げ付きに備えて計上する貸倒引当金と貸倒損失を合計した1〜3月期の不良債権処理費用(信用コスト)は3行合計で54億ドルと、前年同期の3.8倍になった。ウェルズのシャーフ氏は「返済遅延や貸し倒れは緩やかに増加している」と明かす。

銀行の本業である預貸業務の環境変化も不安材料だ。JPモルガンのジェレミー・バーナム最高財務責任者(CFO)は「(足元の預金増は)一時的な流入で、安定した預金ではない」と警戒する。米金利が高水準のため、預金を維持するためには預金金利を今後引き上げざるを得ない。

一方、FRBは24年からの利下げを想定しており、貸出金利は下がる可能性がある。利ざやが悪化するほか、融資は不良債権化することがないよう、慎重に選ばざるを得ない。

融資判断が厳しくなれば企業の資金繰りが悪化し、じわじわと収益や財務を傷める。景気悪化に拍車がかかるほか、銀行の不良債権となって跳ね返る可能性もある。

既に金利収入はピークアウトの兆しが見え始めた。ウェルズの1〜3月期の純金利収入は前年同期比で45%増だったが、22年10〜12月期比では1%減だ。JPモルガンやシティでも伸びは急速に鈍っている。JPモルガンのジェイミー・ダイモンCEOは14日の電話記者会見で「(金利収入は)24年に大きな減少を見込む」と警戒する。

こうした逆風は中堅・中小銀により強く吹きそうだ。FRBが14日公表した全米の銀行の財務統計によると、5日時点の融資残高の伸び率は中堅・中小銀で前年同期比12%増となり、直近のピーク(15%増)から鈍化した。焦げ付きの懸念が強まる商業用不動産ローンは特に中堅銀の融資比率が高い。

「ゴリアテ(巨人)が勝つ」。ウェルズの銀行アナリスト、マイク・マヨ氏は旧約聖書になぞらえ、規模が大きく業務範囲が分散されている大手銀が中小銀より有利な事業環境だと表現した。米銀大手が直面する収益低迷リスクは、中堅銀や地銀でより差し迫っている。

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