トランプ米政権が発足して20日で3カ月。高関税を武器に対米貿易黒字の解消や防衛費拡大を求め、各国は対抗か譲歩かの決断を迫られる。不確実性は前例のない水準に高まり、その刃(やいば)は世界で株価急落と景気減速懸念を連鎖させ、米国が戦後築き上げた信認も一気に崩しかねない。
米ノースウェスタン大のスコット・ベーカー准教授らが新聞記事などから算出する米国の「貿易政策不確実性指数」は3月、5735に跳ね上がった。大統領選直前だった2024年10月の29倍、第1次政権で過去最高を更新した19年8月の3倍だ。トランプ政権の猫の目の関税政策が経済の先行きを極めて不透明にしていることを映す。

高まる不確実性の裏に、トランプ大統領の強権的な政治手法がある。1977年制定の国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に、安全保障上の緊急事態宣言を初めて関税に適用。連邦議会の頭越しに関税の対象範囲や税率を自在に操れるようになった。
三権分立を礎とする米国の統治構造は揺らぐ。打ち出した大統領令は早々に100本を超え、3カ月で29本だった第1次政権を大幅に上回る。連邦議会を通して成立した法案は政権発足からわずか5本にとどまる。
起業家のイーロン・マスク氏が事実上率いる米政府効率化省(DOGE)は議会の了承なく予算措置を相次ぎ実質的に停止している。米メディアによると、裁判所による米政府への一時差し止め命令は15日までに74件に上った。

世界の株価は乱高下している。米国のダウ工業株30種平均は4月に24年末比で一時13%安となった。欧州主要600社の株価指数であるストックス600は同11%上昇した後、4月に同7%の下落に転じた。46%と高い相互関税を課されたベトナムの株価指数は下げ幅が一時14%に達した。
「恐怖指数」とも呼ばれる米株の変動性指数(VIX)は8日に50を超えた。20年の新型コロナウイルス禍を除けば、08年のリーマン危機以来の水準だ。
相互関税を完全発動した9日には株式やドルだけでなく、米国債まで売られるトリプル安の「米国売り」となった。慌てた米政府は相互関税の一部を90日間凍結したが、市場の不安感は消えていない。

ニューヨーク連銀によると、投資家が米国債への投資に対して要求するタームプレミアム(上乗せ金利)は10日、14年9月以来およそ10年半ぶりの高水準に達した。基軸通貨国である米国の国債が、安全資産としての地位を疑われている構図だ。
各国や市場参加者の警戒をよそに、トランプ氏の岩盤支持層は揺るがない。米リアル・クリア・ポリティクス(RCP)によると18日時点でトランプ氏の平均支持率は46.5%。50%超だった発足時からは下がったが、高い水準を維持する。経済のグローバル化から取り残された低所得層などは、トランプ氏による既存秩序の解体に喝采を送る。
「我々は間違いを犯すこともあるが、すぐに修正する」。マスク氏は政権の強みをスピード重視と、それをすぐに方向転換できる柔軟性にあると主張する。だが、ジェットコースターのような政権運営が続けば、企業は投資をためらい、家計も消費に及び腰にならざるを得ない。
英科学誌ネイチャーの調査では、トランプ政権下の米国からの脱出を検討する研究者の割合が75%に達した。欧州連合(EU)は米国抜きの自由貿易体制の維持へ、日本などを含む環太平洋経済連携協定(TPP)との連携を探る。トランプ氏の再登板で変質した米国は自壊の様相も見せる。
(ワシントン=高見浩輔)