次期米財務長官人事については、ほとんどの主要米メディアが予想を外した。
それゆえ週末には言い訳的な記事が目立った。マラソンに例えれば、最初はベッセント氏が大きくリード。その後、同氏が、持論の反関税論を翻した時点でつまずき、実業家のラトニック氏が浮上。両候補が、激しい非難合戦を繰り広げた。
内紛が次期政権のイメージを悪くすると懸念したマスク氏が、批判的論調のコメントを披歴したところで、トランプ氏も、嫌気がさしたのが、代替候補として、ウォーシュ元FRB理事やローワン投資会社CEOと相次いで面談。しかし、両者ともお気に召さなかったようで、最終的に、ベッセント氏を財務長官、ラトニック氏を商務長官の妥協案に落ち着いたようだ。結局は、やはり、忠誠心と政治献金額が決め手。
このような選好過程を見せつけられたウォール街には、新財務長官が就任後、気まぐれなトランプ氏の意向を常に配慮して、政策変更を繰り返し、そのたびにマーケットが荒れる可能性に身構える。
前期のトランプ政権の時代と比し、ニューヨーク(NY)市場は、劇的に変化している。今や、超高速度取引と人工知能(AI)の導入で、アルゴリズム売買が支配する状況だ。買いが買いを呼ぶ、あるいは、売りが売りを誘発する傾向が顕著で、資産価格のボラティリティーが、トランプ発言で、益々、激しくなるは必至だ。
まずは、利下げ開始後も米10年債利回りが4%を超す高水準にあることをトランプ氏は容認するのか。外為関連では、ドル高許容か、ドル安志向か。関税も不法移民送還の影響も、マクロ的に、インフレとデフレの両面に及ぶので、政策的に正解はない。
日本人として気になるのは、ドル高円安がいつまで、どこまで許容されるのか。この問題に関して、一向に議論が進まないのは、トランプ氏自身が、どちらが良いか分からないからだ。
とはいえ、ドル円が160円に達すれば、さすがに日本側の為替介入に理解を示すであろう。トランプ氏は、基本的に自国通貨安主義ゆえ、同床異夢ながら、日本金融当局の意向と合致する。
NY市場の現場の人たちと話していると、160円に接近したら、投機的円買い・ドル売りポジションを大きく増やす意図が透ける。但し、現在は、ユーロ売りに傾注しており、円相場は蚊帳の外だ。
ちなみに、ベッセント氏は、大学時代の副専攻が日本語で、故安倍晋三元首相を敬服(admire)しており、「3-3-3」という同氏の政策綱領も「三本の矢」からヒントを得たと明言していることは、本欄21日付に書いた。
知日派と思われるが、同氏がソロス氏の傘下で働いていた頃にはポンド売りを体験して、円売りにも関与したとの噂もウォール街には流れる。
財務長官となれば、あくまでトランプ氏の意向に従うであろうが、知日派が反日派に転換する事例も筆者は見せつけられてきたので、直接の交渉相手として油断はできまい。
トランプ政権が、為替介入協力を、取引の材料として、使ってくることも考えられる。円キャリートレードではなく、円ポリティカル(政治的)トレードだ、とのジョークに接して、筆者は笑えなかった。