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日銀、25年秋にも政策金利0.75%が視野 30年ぶりの水準

金融激変 キャップが読む2025(金融政策)

日経新聞より引用

2025年は日銀にとって、過去30年未踏の政策金利の領域へと利上げを進める1年となりそうです。23年春に就任した植田和男総裁の任期も折り返しを迎えます。米国では米連邦準備理事会(FRB)が利下げを開始し、トランプ前大統領の返り咲きで政治・経済情勢を巡る不確実性が増しています。25年の金融政策を展望します。

2025年の注目ポイント
①いつ利上げするのか
②円安・物価高は続くか
③日銀の利上げの障壁となりそうなものは

いつ利上げするのか

日銀の植田総裁は「経済・物価情勢の改善が続いていけば、それに応じて、政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していくことが必要になる」(12月25日の講演)と説明しています。

利上げ判断で重視するポイントとして、春季労使交渉(春闘)に向けたモメンタム(機運)と、米国のトランプ次期政権の経済政策を巡る不確実性の見極めを挙げています。春闘に関しては、結果が出るのは3月ですが、日銀関係者は「年末年始の経営者の発言や、1月9日の支店長会議で雰囲気はつかめる」と話します。

1月20日には共和党のトランプ氏が大統領に就任します。政権の主要メンバーの顔ぶれが固まり、就任前後の時期に近づくほど、政策の方向性は具体的になると言えそうです。日銀は12月の金融政策決定会合では追加利上げを見送りましたが、日銀関係者からは「1月の利上げは十分ありうる」との声が出ています。日銀が懸念する不確実性が少し晴れる可能性が高いからです。

「12月の利上げを見送って、1月にもしできなくてもよいのか」。12月会合での利上げに対する考えを取材していた際に、日銀関係者によく投げかけた問いです。

結論からすると、「1月にできなかったらそれは仕方ない」と語る関係者が多かったように思えます。プラス圏への定着が焦点となっている実質賃金など、賃金指標で今後どういう数字が出るかにも左右されます。トランプ氏就任直後で市場が混乱すれば1月も利上げどころではない可能性もあります。12月会合後の記者会見で植田総裁が語ったように、1月は「総合判断」となるでしょう。

日銀内部からは利上げペースについて「半年に1回くらいだろう」との声があります。仮に25年1月に政策金利である無担保コール翌日物金利の誘導目標を0.5%に引き上げれば、そこから半年となるとさらなる追加利上げは7月以降になりそうです。

家計も企業もまだ金利ある世界に慣れていません。日銀関係者からは、金利を上げていくほど「時間をかけて注意深く様子を見ないといけない」「支店長会議でのヒアリングも重要だ」との声が出ています。

日本の政策金利が最後に0.5%を超えていたのは1995年で、ちょうど30年前です。政策運営に携わる日銀幹部でさえ「0.5%超の金利を知らない」という人が少なからずいます。近年なかった金利水準に入っていくだけに、0.5%への利上げ後は家計や企業への影響を丹念に点検し、秋以降に0.75%へと追加利上げするというシナリオが考えられるでしょう。

円安・物価高は続くのか

一部の市場参加者は12月会合での利上げを想定していました。日銀が政策を現状維持としたことは、金融正常化に慎重な「ハト派」と映りました。その結果、外国為替市場では円安・ドル高が進んでいます。26日には一時1ドル=158円台と約5カ月ぶりの円安水準をつける場面がありました。

消費者物価指数(CPI)は、生鮮食品を除く前年同月比ベースで、11月にかけて2年8カ月連続で目標の2%を上回って推移しています。日銀は特に人件費の比率が高いサービス価格の上昇度合いに注目していますが、サービス価格の上昇率も10月、11月と連続で1.5%で、底堅さを保っていると言えます。

植田総裁が「場合によっては、為替の物価への影響が以前よりも大きくなっているという可能性もある」と指摘するように、日銀は為替の動きを注視しています。

為替政策は財務省の所管であり、金融政策とは独立しています。24年の春ごろは、日銀関係者もこの「原則」を重視する発言を繰り返し、為替についての言及を避ける傾向がみえました。ただ金融政策を読み解くうえで、物価や個人消費にも影響する為替は市場の注目を集めており、「所管ではないから」という説明は時に無理も生まれます。

円安による物価上振れリスクに言及し、追加利上げを決めた7月会合以降は日銀内部からも、為替の動きを注視する姿勢が頻繁に聞かれるようになりました。

米連邦準備理事会(FRB)は最新の予想で25年に2回利下げすると見込まれています。日銀が2回利上げしても、25年末時点の日米の政策金利は3%超開いた状況です。ある日銀関係者は「円安圧力は続く。(いつでも利上げがありうるという)ファイティングポーズをとり続けるしかない」と話します。

日銀の利上げの障壁となりそうなものは

まずはトランプ氏の政策です。例えば関税は、現時点ではどの国に対してどの程度の関税をかけるか「(トランプ氏は)多少発言しているが、本気でそれをやるかどうかはまだ見えていない」(植田総裁)状況です。実際に新政権が動き出せば「時間の経過とともに、もう少し真剣に見通しに織り込むことができる情報が徐々に出てくる」とみています。

トランプ氏の政策は関税や積極財政によって米国のインフレ圧力となり、米国の金利が高止まりし、為替市場では円安・ドル高が進み、輸入物価の上昇を通じて日本のインフレ圧力にもなる――。こうした見方が一般的だと思います。この場合、国内経済が崩れない限りは日銀は粛々と物価情勢に応じて利上げをすることになります。

一方、12月の決定会合の「主な意見」では、政策委員から「(米国の)輸出産業重視のためにドル安を志向する可能性もあり、留意が必要」といった意見が上がりました。米国の政策に伴う金融市場の混乱や、日本経済が悪化するといった事象も金融正常化には障壁となり得ます。

日本の政治情勢も焦点です。岸田文雄前政権は日銀の金融正常化に理解を示しており、「かつてないほど政治と円滑にコミュニケーションができている」(日銀関係者)状態でした。24年3月のマイナス金利解除、7月の追加利上げは政治の大きな反対を受けることなく進みました。

石破茂首相も日銀の判断を尊重する姿勢を取っていますが、自民・公明両党は少数与党です。今後の政局次第では、金融政策の方向性が政治で取り沙汰される局面が来る可能性もあります。

12月26日には、日銀として初めて、今後の金利上昇に伴う日銀の収益への影響の試算を公表しました。短期金利を2%まで、年0.75%のペースで引き上げるといった最も厳しいシナリオで、2027〜28年度ごろに最大2兆円規模の最終赤字が発生するというものです。

日銀は試算とともに「一時的に赤字または債務超過となっても政策運営能力に支障は生じない」と強調しています。日銀の得た利益は大半が国庫納付されるため、日銀の財務は政治家の関心の強い分野でもあります。試算の公表は、日銀が金融正常化を進めるうえでの周到な準備と言えそうです。

直近の日銀の利上げ局面は、2000年8月のゼロ金利解除と、06〜07年です。いずれも、世界景気悪化によって短期で頓挫し、政策金利が0.5%を超えることはありませんでした。物価2%が定着し、市場で「0.5%の壁」とも言われる金利水準を超えるのか。日本経済と金融政策の「転換期」は25年も続きます。

(大島有美子)

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