イチからわかる 為替と海外株投資の関係
新しい少額投資非課税制度(NISA)が2024年1月にスタートして1年がたちました。投資への一歩を踏み出すひとが増え、人気なのが成長著しい企業の多い米国株に投資したり、世界中の株式にまとめて投資したりする投資信託です。これらの投信を通じて持つ海外株の円で考える価値は、揺れ動く円相場の影響を受けます。投資の初心者に向けて、米国株投資を例に為替との関係をイチから解説します。
そもそも円安や円高って何だっけ?
日本の通貨である円は外国為替市場で日々、他の通貨と取引されています。その時の円の値段が米国のドルなど他の国の通貨に対して下がることを「円安」、反対に上がることを「円高」と言います。
円の対ドル相場は24年7月に1ドル=161円台と約37年半ぶりの歴史的な円安・ドル高水準まで下落しました。そこから一転して9月には139円台と2カ月ほどで20円以上も円高・ドル安が進みました。
この円の対ドル相場を例に円安、円高のそもそもを考えてみましょう。仮に足元が1ドル=150円だとします。3カ月後に160円になれば、ニュース記事では「10円、円安・ドル高が進んだ」と表現します。
150円から160円に数が増えたのになんで円安なの?と思った方もいるかもしれません。増えているのは1ドルを買うのに必要な円の金額です。
例えばお店で魚や野菜と同じ売り物のように「1ドル」が並んでいる様子をイメージしてください。3カ月前には150円で買えていた1ドルが、今日は値札を見ると160円になっていたとします。あなたは「ドルが高くなったなぁ」と感じるのではないでしょうか。
まさしくドル高です。1ドルを買うのに必要な円の金額が増えることは、円の価値がドルと比べて下がったことを意味するため円安・ドル高が進んだと言うのです。
外為市場では、個人から企業や金融機関に至るまで様々な参加者が、世界中の通貨を24時間交換しています。円の価値は円を売りたい人が多ければ円安に、円を買いたい人が多ければ円高になるという「綱引き」で決まります。
そこには各国の金融政策なども絡みます。詳しくは記事の最後にリンクがある「イチからわかる 外国為替市場」や「イチからわかる 金利と為替」をご覧ください。
円をドルに替えて米国株を買う
米国の株式市場で株式を買うには、ドルで支払う必要があります。海外旅行でニューヨークに行けば、お店で買い物をするのにドルが必要なのと同じです。また、日本で暮らして円で収入を得ている人は、自分の買った米国株の評価額を円に換算していくらか、で見るでしょう。このように、円をドルに替えたり、その評価額を円で見たりするときには、為替の影響を受けます。
順を追ってみていきましょう。米国株を買う流れは、まず持っている円をドルに替えます。そのドルを使って米株式市場で株式を購入します。買った米国株の直接的な価値はドルで見た株価に連動します。売却する時はドルで代金を受け取り、最終的にそのドルを円に替えるのが基本です。
これは米国株に限った話ではなく、海外株に投資する時には円をその国の通貨に替える必要があります。なお、実際には証券会社が「両替」などの手続きをしているため、私たちがいちいち銀行や両替所に行く必要はありません。
円安か円高か、それで米国株の円で見た評価額が変わる
米国株を持っている場合、円に換算してみたときの評価額は買った時よりも為替が円安・ドル高に振れれば上昇しやすく、円高・ドル安が進めば下落しやすくなります。
例え話で考えてみましょう。1ドル=150円のときに、米株式市場に上場しているA社(株価は100ドル)の株式を10株買うとします。手数料などを考えなければ、必要な金額はドルベースでは100ドル×10株=1000ドル、円ベースになると1000ドル×150円=15万円です。
3カ月後、仮にA社の株価が買った時と同じ100ドルだったとします。もしこのとき円安・ドル高が進んで160円になっていたら、保有しているA社株100株の円で見た評価額は100ドル×10株×160円=16万円になります。反対に、円高・ドル安が進んで140円になっていれば、100ドル×10株×140円=14万円になります。
このように、株価が横ばいだとしても、為替の影響を受けて持っている米国株の円で見た評価額が変化します。
では、米国株が値上がり、値下がりした場合の為替との関係はどうでしょうか。一般的な影響パターンに分類してみてましょう。
米国株の株価が上昇しているとき、円安・ドル高が進めば株高と円安のダブル効果で円で見た評価額が上がる一方、円高・ドル安に振れれば株高の好影響を円高が弱めるかたちで円で見た評価額は増えづらくなります。この考え方の裏返しで米国株が値下がりしているときは、円安・ドル高が進めば円で見た評価額は減りづらく、円高・ドル安に振れればダブル効果で円で見た評価額が下がります。
実際には株価と円相場それぞれの変動率の大きさの違いも関係してきます。例えば20年に、米国株運用で参考にされる米S&P500種株価指数は約16%上昇した一方、円相場は約5%上昇しました。この場合、株高効果は円高による下押し効果を大きく上回って円で見た評価額が上昇したことになります。
24年までの5年間は米国株高も円安進行も同時に起きるダブル効果で円で見た評価額が上がる傾向にありましたが、その前の5年間は円高に振れても米国株の上昇の効果が差し引きで大きく円で見た評価額を押し上げる流れがありました。成長企業が多い米国株投資が人気であるゆえんです。
今回は米国株を例にしましたが、全世界やほかの海外の株式を保有した場合も、為替と海外株投資の関係は同じことが言えます。
まとめ
ここまで読んで為替と海外株投資の基本的な関係を理解した読者のみなさんなら、為替リスクをなるべく抑えて有望な海外株に投資したいと思うでしょう。しかし、これはなかなか難しいことです。プロでさえ為替も株価も確実に予測することが難しいからです。
NISAの趣旨である中長期投資という前提にたてば、為替の変動リスクを抑えるために積み立て投資で海外株を含めた購入タイミングを分散する方法や、「為替ヘッジあり」と呼ばれるタイプの投信を購入する方法があります。それでも、積み立て投資をしていても急激な円高に振れれば円で見た評価額の下振れは起きえますし、為替ヘッジありの投信は一定のコストがかかり続ける可能性があります。
わたしたちにできることは為替と海外株投資の関係を頭に入れつつ、日々のニュースでその状況を把握していくことです。金融市場にショックが走り急激な円高が進んだ24年8月のようなときに、海外株投資を継続するか、いったんやめるのかといった行動力につながります。許容できる損失範囲を事前に決めておくと判断がつきやすくなります。その際は為替リスクのない日本株投資への切り替えなども選択肢になります。
(神山美輝、グラフィックス 天野由衣、茂木麻美)