日銀が国債の空売り勢への締め付けを一段と強めている。金融機関に保有国債を一時的に貸し出す「国債補完供給(SLF)」で10年物国債の一部銘柄の供給量を絞るなどの措置を始めた2月27日以降、市場で対象銘柄の希少性が高まっている。債券の貸し出しコストを引き上げ、空売りの持ち高を維持できない状況に追い込もうとしているようだ。
日銀は今週からSLFの運用を一部見直した。具体的には10年物国債のうち新発債を含むカレント3銘柄を対象に、最低品貸料を0.25%から「原則として1%」に引き上げ、貸出量の上限を引き下げた。導入初日の2月27日から、10年367回と368回に同措置を適用。これら2銘柄はSLFの利用を前提とした投機勢の空売りによって日銀の買い入れが膨らみ、日銀の保有額が発行額の100%を超えている。
10年367回と368回を対象としたSLFでは今週に入り、落札金利が大幅に低下している。平均落札金利は2月27日にマイナス1.380%だったが、28日はマイナス3.828%、3月1日はマイナス4.550%に落ち込んだ。その後もマイナス3%台で推移する。
借り入れコスト増、金融機関に危機感
落札金利の低下は、SLFを利用する金融機関の借り入れコスト上昇を示す。日銀が定めた落札金利の上限(マイナス1.1%)を大きく下回る応札があるのは、金融機関に「より深いマイナスの金利で札を入れなければ、必要な国債を調達できないかもしれない」という警戒感があるためだ。
金融機関の警戒感の背景には、貸出量の上限引き下げがある。品貸料を引き上げた銘柄の貸し出し上限は、従来の「日銀保有残高の100%」から減らす措置をとっている。日銀は銘柄ごとの具体的な貸し出し上限を公表していないが、落札結果から推察できる。
例えば2月28日のSLFでは、10年367回で1兆3632億円の応札があったのに対して落札額は1兆3000億円にとどまった。日銀は同日1兆3000億円の上限を設けたと考えられる。その後も2日は応札額1兆2085億円に対し落札額は1兆1500億円、3日は応札1兆2060億円に対し落札1兆499億円で「日銀は貸出枠を徐々に絞っている」(国内証券のアナリスト)と受け止められる。
こうした日銀の姿勢を受けてSLFの落札金利は急低下。現金担保付き債券貸借(レポ)市場の銘柄を指定したスペシャル取引(SC)の金利にも低下圧力がかかり、空売りポジションの維持にかかるコスト上昇を促しているようだ。流通市場では前週末に0.350%だった367回債の利回りが、1日には0.260%に急低下する場面があった。債券需給の逼迫を反映した動きがみられる。
決済の円滑化目的に特例措置
そのうえ今週は、SLFの特例措置も発動したようだ。日銀は2日午後に10年367回債を対象とするSLFを実施した。複数の市場参加者によると、日銀は午前のSLFで国債を調達できなかった金融機関に対し、翌日以降の「減額措置」の利用を前提として午後にSLFを通知する特例を設けているという。
減額措置とは、金融機関が日銀に一定の手数料を支払い、日銀が買い戻す国債の全額、もしくは一部を減らす仕組みだ。
2日午後の367回債を対象としたSLFでは、日銀が設定した貸出金利マイナス3%で485億円の応札があり、全額を落札した。日銀は貸出量を引き下げた銘柄のSLFは「原則として午後の通知は行わない」としており、この特例措置は決済の円滑化が目的だと考えられる。
特例措置が用意されているとはいえ、市場では「日銀が優先するのはあくまで空売り勢の討伐」(国内金融機関の債券担当者)との見方が優勢だ。日銀は、一連の措置とあわせて品貸料を引き上げた銘柄の利回りが0.5%に達しないと見込まれる場合は、連続指し値オペの対象から外す可能性があるとの方針も示していた。だが、367回と368回は現時点で同オペの対象となったままで「利回り上昇につながりうる市場調節を回避している」(同)ようにみえる。
9〜10日の金融政策決定会合を前に、3日の長期金利は日銀が上限とする0.500%を一時突破するなど金融政策修正への思惑は残る。それだけに、臨戦態勢で対峙しているのかもしれない。