投資情報ななめ読み

南に向かう投資マネー 脱インフレ時代の勝ち組探す

日経新聞より引用

ジャクソンホール会議を通過し、市場に米利下げ前夜のムードが漂う。マネーの流れは転機を迎え、投資家は脱インフレの時代の勝ち組を探そうとしている。インフレやドル高の重荷が外れる新興国のうち、経済成長率の高い東南アジアへの資金流入が増え始めた。

通貨高も重なりドル建ての投資リターンが拡大

8月中旬以降、東南アジア株は軒並み高値を更新した。インドネシアのジャカルタ総合指数は21日に過去最高値を更新。マレーシアのクアラルンプール総合指数も20日に2020年12月以来、約3年8カ月ぶりの高値を付けた。

「投資家からマレーシア株への問い合わせが急増している」。シンガポール地場金融フィリップキャピタル傘下のフィリップ・セキュリティーズ・リサーチでリサーチ部門の責任者を務めるポール・チュウ氏は明かす。

東南アジアの株高の背景には、米国の9月利下げ観測がある。米国と東南アジア各国との金利差が縮小し、為替相場も反転。東南アジア通貨は対ドルで上昇し、マレーシアリンギは1年4カ月ぶりの高値圏にある。

株価上昇と通貨高が重なり、MSCIが算出する東南アジア諸国連合(ASEAN)の株価指数はドル建てで8月に6%高となった。米S&P500種株価指数の2%と比べ高く、ドルで運用する海外投資家からみたリターンの改善が著しい。

ドル安が追い風となる構図は南アフリカやブラジルなどでも共通する。新興国のなかで東南アジアが特に注目される理由が経済成長率の高さだ。マレーシア中央銀行が16日発表した4〜6月期の実質国内総生産(GDP)成長率は5.9%と市場予想を上回り、22年10〜12月期以来の高い水準となった。ベトナムやタイでも成長が加速した。

マレーシアでは「データセンター、経済特区、交通インフラの整備など投資を促進する構想があり、構造改革に投資家は好感を抱いている」(チュウ氏)という。

中国を上回る経済成長率

国際通貨基金(IMF)が7月公表した世界経済見通しでは、米国のGDP成長率が25年に1.9%に減速するのに対し、マレーシアは4.4%、インドネシアは5.1%、フィリピンは6.2%、インドは6.5%と高い成長が予測されている。ブラジル(2.4%)や南アフリカ(1.2%)、ナイジェリア(3.0%)と比べても高い。

中長期の見通しも良好だ。シンガポールの調査機関アンサナ・カウンシルと米コンサル大手ベイン・アンド・カンパニー、DBS銀行が共同で発表した調査では、34年までの10年間に東南アジア6カ国の成長率が5.1%と、中国(3.5〜4.5%)を上回る見通し。世界経済の成長のけん引役はアジアで中国から南へ移動している。

東南アジアは米中対立を背景としたサプライチェーン(供給網)の再構築の恩恵を受けている。米国の中国に対する関税引き上げなどの影響で中国から米国への輸出が難しくなり、生産拠点を中国ではなく地政学的に中立的な東南アジアへ置く例が増えている。

インドネシアでは電気自動車(EV)やEV用電池、マレーシアやシンガポールでは半導体やデータセンターの投資が盛んだ。マレーシアのアンワル首相は「我々の国を半導体製造に最も中立的な場所として提供する」と意気込む。

インテルはマレーシアで21年からの10年間で300億リンギ(発表時の為替換算で約8100億円)の投資を計画。独インフィニオンテクノロジーズは工場を拡張し、8月上旬に次世代パワー半導体の生産を始めた。ベトナムでは韓国サムスン電子が積極投資する。

ASEAN事務局が7月に更新した統計(暫定値)によると、23年のASEAN10カ国への外国直接投資(FDI)の受け入れ額(ネット、フロー)は22年比で0.3%増の2298億ドル(約33兆6000億円)に増え、過去最高を更新した。シンガポールやベトナム、カンボジアなどの増加が目立った。

マネーの流入、続くか

ここ数年、世界的なインフレと米ドル高が東南アジア各国を悩ませてきた。インフレは内需の重荷となり、財政面では自国通貨安がドル建て債務の負担を増幅させた。さえない景気と通貨安の二重苦がマネー流出につながってきた。しかしインフレが落ち着き、通貨安も反転したことで、マネーが回帰しつつある。

欧州資産運用大手LGT傘下のLGT証券(タイ)でポートフォリオ・マネジメントの責任者を務めるジェフ・ステソポン氏は、「ASEAN市場はテクノロジー銘柄が少なく台湾や韓国などに後れをとってきた。ハイテクを取り巻く楽観論が一服すれば関心が高まる可能性がある」とみる。

政情不安のタイでは株価が低迷し、東南アジアはなお課題も多い。ただ「北から南へ」がマネーの新たな潮流として見え始めた。新しい少額投資非課税制度(NISA)を使った投資先も再考が必要になってくる。

(シンガポール=佐藤史佳)

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