投資情報ななめ読み

利上げ加速のハードル高めた雇用統計 賃金の伸びが鈍化

残るピースは2月のCPIに

日経新聞より引用

【NQNニューヨーク=戸部実華】2月の米雇用統計は市場予想を上回る雇用者数の伸びを示した。それでも米債券市場では幅広い年限の金利が低下。賃金の伸び鈍化が市場の注目を浴び、米連邦準備理事会(FRB)が3月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で利上げを加速するハードルは高くなったとの見方が広がったためだ。

「利上げ幅が0.5%に拡大するハードルは引き上げられた」。ウェルズ・ファーゴのサラ・ハウス氏は10日に発表された2月の米雇用統計を受け、こう分析した。非農業部門の雇用者数は前月比31万1000人増と、ダウ・ジョーンズ通信がまとめた市場予想(22万5000人増)を上回った。だが、平均時給の伸び率は前月比0.2%にとどまり、市場予想(0.4%)を下回った。失業率は3.6%と、1月(3.4%)から悪化。労働参加率は上昇し、労働需給の逼迫感が薄れてきたと受け止められた。

雇用者数の伸びも業種別でみると、強弱が入り交じった。レジャー・宿泊サービス、教育・医療サービスの2分野が全体を押し上げた一方、IT(情報技術)関連、輸送・倉庫、製造業などは減少した。バンク・オブ・アメリカ(バンカメ)は伸びが目立った分野は「雇用の回復が遅れていた。米経済は再加速しているようにはみえない」と指摘した。

市場では「最も朗報だったのは賃金の上昇圧力が和らいだことだ」(コメリカ・ウェルス・マネジメント)との声があがった。平均時給の前月比ベースの伸び率は1年ぶりの低水準。失業率の上昇は労働人口が雇用者を上回って増えたことを示し「雇用が大幅に悪化せずにインフレの沈静化は可能だと示唆した」(ウェルズ・ファーゴ)という。

1月の雇用統計は市場予想を大幅に上回る雇用者数の伸びとなり、景気減速と物価上昇の鈍化を見込んでいた市場の楽観にくぎを刺した。パウエルFRB議長が今月7日の議会証言で今後のデータ次第で「利上げを加速する用意がある」と発言したばかりで、2月の雇用統計に上振れへの警戒が高まっていただけに、市場には安堵感が広がったようだ。

金利先物市場の値動きから政策金利を予想するフェドウオッチでは、21〜22日のFOMCで政策金利を0.25%引き上げ4.75〜5.00%にする確率は10日夕時点で6割ほどと、前日の3割強から大幅に高まった。再び0.25%利上げが市場の基本シナリオになった形だ。10日時点でバンカメは3月、5月、6月の会合で0.25%ずつ利上げし、最終的な到達点(ターミナルレート)は5.25〜5.50%を見込む。

10日の米債券市場では10年物国債利回りは一時、前日比0.23%低い(価格は高い)3.67%、金融政策の影響を受けやすい2年債利回りは0.30%低い4.57%を付けた。米金利の急低下を受け、外国為替市場ではドルが幅広い通貨に対して下落。対円では1ドル=134円台前半と2週間ぶりの円高・ドル安水準を付ける場面があった。

米債券市場では米中堅金融SVBファイナンシャル・グループ傘下のシリコンバレーバンクの経営破綻による影響が金融システム全体へと波及しかねないとの警戒も相対的に安全とされる債券の買いにつながった。「高インフレと景気に抑制的な金融政策の現実をみせた1例だ」(BMOキャピタル・マーケッツ)との見方もある。一方、「市場のセンチメントの悪さを背景にFRBは利上げ幅を拡大しにくくなる」(エバコアISI)との声も聞かれた。

10日はひとまず利上げ加速観測が後退したが、インフレ高止まりの懸念はくすぶったままだ。シティグループは平均時給の伸び鈍化は給与水準が高いIT(情報技術)関連などの雇用減が響いたと分析。10日時点でも3月の会合で0.5%の利上げ、ターミナルレートは5.50〜5.75%との予想を維持した。14日には2月の米消費者物価指数(CPI)の発表を控え、3月会合の利上げ幅を決める「重要なパズルの1ピース」はまだ埋まらない。金融政策に揺れる相場の変動率の高さは週明けも続きそうだ。

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