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円10月急落、一段安に警戒感 日銀「タカ派」効果続かず

日経新聞より引用

外国為替市場で円安・ドル高が再燃している。10月の円の下げ幅は35年ぶりの大きさとなり、市場では一段安を見込む声が増えている。日銀の植田和男総裁は10月31日の金融政策決定会合後の記者会見で、追加利上げに前向きな「タカ派」姿勢を示したが、市場は1ドル=160円に向けて円が下落する可能性を意識し始めている。

「異次元の円安ですね」。ある邦銀ディーラーは10月の円急落についてため息をつきながら話す。日銀が毎営業日公表する午後5時時点の円相場をみると、10月31日は1ドル=152円24銭だった。9月末の142円37銭から10円近く円安が進み、下げ幅(9.87円)は1989年5月以来35年ぶりの大きさとなった。

10月円安をもたらしたのは複合的な要因だ。米国では底堅い経済指標が相次ぎ、米連邦準備理事会(FRB)が大幅利下げに動くとの観測が後退。日本では自民・公明の与党が衆院選で過半数を確保できず、野党と協力するために財政支出を増やすとの見方が広がった。10月は大半が選挙戦期間中で政府から円安をけん制する発言が強まらなかったことも、円売りを後押しした。

円安進行を受けてか、日銀の植田総裁の発言は変わってきた。10月31日の記者会見では、8月以降使ってきた「時間的余裕」という表現を封印し、12月利上げの可能性さえ否定しなかった。岡三証券の武部力也シニアストラテジストは「政治が混乱していても日銀が利上げできるという姿勢を示し、12月利上げの選択肢も捨てていない印象だ」と受け止める。

植田総裁の「タカ派」発言を受け円相場は一時1ドル=151円台と、発言前から1円ほど円高に振れた。ただその後は153円台を付ける場面もあるなど、円買い一辺倒の動きとはなっていない。

背景にあるのは日米の短期金利差が開いた状態が続いていることだ。米国は利下げ局面にありながら政策金利は4.75〜5.00%と高い水準にある、一方、日銀の政策金利は依然として0.25%にとどまる。今後縮小するとしても日米の政策金利逆転は見込みづらい。

みずほ証券の大森翔央輝チーフデスクストラテジストは「米景気が良好で日銀が利上げを進められたとしても、その場合は米金利が高止まりする。日米金利差は開いたままで、キャリートレード需要は簡単にはなくならないだろう」と指摘する。投機筋の円・ドル持ち高は軽く、8月に解消した円キャリートレードを再び構築する動きが円相場を押し下げるとの見方もある。

海外株人気で国内の資産形成マネーが海外に流出する状況も続いている。貿易赤字も続いており、構造的な円売り圧力は根強く残る。

チャート的に160円に向けて大きな抵抗線がない点も、円安進行のリスクを高めている。円相場のチャートは、分析上最も重要なポイントの1つとされる200日移動平均線を円安方向に抜けた。PER(株価収益率)などの投資尺度がない外為市場ではテクニカル分析を重視する市場参加者が多く、200日移動平均線の突破は8月以降の円高局面が一巡したことを示唆するとの見方も多い。

もっとも円急落を受けて政府・日銀による為替介入への警戒感も強まりつつある。加藤勝信財務相は10月29日の記者会見で衆院選後の円安について「(円安の)動きがあることは認識している。投機的な動向も含め為替市場の動向を緊張感をさらに高めて注視していく」と話した。

政府・日銀は円・ドル相場の過度な変動は企業を含めた実体経済への影響が大きいとして許容しない方針を示している。円の下落が今後も続けば口先介入が強まり円安の動きに歯止めをかける可能性もある。

日銀の植田総裁が発言をタカ派に修正したのも円安の影響が大きいとの見方が広がる。米大統領選の結果次第では円が一段安となる展開も市場で想定される。1ドル=160円に近づけば日銀の追加利上げと為替介入への警戒感から相場が大きく振れやすくなる可能性もありそうだ。(佐伯遼)

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