円相場が迷走している。取引材料になっている日米間の長期金利差の方向感がいっこうに定まらないからだ。金利を動かす主因である日銀と米連邦準備理事会(FRB)が政策変更に動くのは、早くても5月以降との見方が大勢だ。それまでは日米の経済統計や中央銀行関係者の発言で相場が揺れ動く不安定な状態になる可能性が強まっている。
円相場は金利差と需給差に影響されやすい。このうち需給差を映す貿易・サービス収支の動向をみると、日本は赤字傾向を長く続けてきたが、直近発表分の2024年12月にかけて2カ月連続で小幅な黒字になるなど、足元で均衡に向かいつつある。その分、円相場は日米金利差との連動性を一段と強めている。

日米の金利動向に最も影響するのは金融政策だ。現状は基本的に日銀が利上げ局面、FRBは利下げ局面にあるため、円相場は日米金利差の縮小を材料に、円高・ドル安方向へと振れやすい。ところが、日米とも金融政策の判断や変更時期を巡る市場の見方が定まらず、結果として円相場が迷走する事態が生じている。
まず日銀。1月の金融政策決定会合で追加利上げを決めたことで、当分の間は現状を維持するとの見方が優勢だった。だが日銀の田村直樹審議委員が2月6日の講演で「25年度後半には少なくとも1%程度まで短期金利を引き上げておくことが必要」と踏み込むと、市場の追加利上げ観測が一気に過熱。円相場は翌7日に1ドル=150円台まで急騰した。
ただ円高・ドル安の進行が長続きすることはなく、12日発表の1月の米消費者物価指数(CPI)の上昇率が前年同月比3.0%と市場の事前予想を上回ると、円相場は一転。今度はFRBの追加利下げが遠のくとの見方から、一時154円台まで下落する展開になった。
円相場と金利差の連動性が強まるほど、市場は日米の金融政策変更に影響する発言や指標に対し、過敏に反応しやすくなる。
1月に就任したトランプ米大統領の政策運営にも市場の視線は向かうが、円相場の方向感を決める材料として消化しづらい。たとえば市場の注目度が最も高い輸入関税の引き上げは、米インフレ圧力の増大が米金利の上昇を招いてドル高要因になるのか、米個人消費の減退が米景気の悪化を招いてドル安要因になるのかが不透明だ。
結果的に円相場の決定要因として金利差に注目が集中する。問題は次の金融政策変更までに長い時間を要する可能性が高いことだ。市場では日銀の追加利上げ時期について、夏から秋にかけて実施するとの予想が優勢になっている。一部には田村委員の発言で5月1日の金融政策決定会合で実施するとの見方も浮上しているが、それでもまだ2カ月以上先の話だ。
一方、FRBの追加利下げについては、1月の米CPIで米景気の底堅さが意識され、年後半まで追加利下げはないとの見方が広がっている。野村証券の小清水直和氏は「1月のCPIは輸入関税引き上げ前の駆け込み需要や年替わりの値上げなどの影響で強い数字になった可能性もあり、次の利下げ時期を予想しづらくなった」と指摘する。
日米とも政策変更時期がしばらく見通せない状況が続けば、市場は余計に経済指標や要人発言を意識した思惑的な売買に走りやすくなる。
個人投資家にとっても、迷走する円相場は気がかりだ。新NISA(少額投資非課税制度)2年目に入り、米国株を中心に投資する投資信託に資金が一段と集まっている。過度に為替リスクを取りすぎない運用姿勢を保つ必要がありそうだ。