イチからわかる外国為替市場
そもそも外国為替市場ってなに?
例えば日本で生活し、円で収入を得ている人が外国に旅行や留学に行くときや、輸入企業が外国から物を買うときには、その国のお金が必要になります。外国為替市場とは、そうしたニーズに基づいて、日本の円と米国のドルといった、異なる通貨を交換する場のことです。
外国為替市場ってどこにあるの?
「市場」といっても、株式市場における証券取引所のような、取引のための特定の建物や場所があるわけではありません。銀行など世界中の市場参加者がコンピューターや電話などでつながったネットワーク全体を指します。
ネットワークは大きく2つに分かれます。外国に行く前にいざ両替をしようとしたら「ニュースで見た為替レートと違う!」と感じたことはありませんか? この違いもここに由来します。それが「対顧客市場」と「銀行間(インターバンク)市場」です。
対顧客市場とは、銀行などの金融機関と、私たち個人や企業(銀行から見た「顧客」)が取引をする場のこと(これをまとめて「市場」と呼びます)。一方の銀行間市場とは、顧客から注文を受けた金融機関が、他の国内外の金融機関とやりとりをするための市場です。文字通り、この市場に参加するのは銀行など限られた金融機関のみです。
記事やテレビで報道されるのは主に銀行間市場のレートです。対顧客市場のレートは、各金融機関が毎朝9時55分時点の銀行間市場を参考に決定したレート(専門用語で「仲値(なかね)」)に、それぞれ手数料を上乗せするのが一般的です。このため、私たち個人が円から外貨に両替する際のレートは銀行間市場のレートよりも円が割安に、反対に外貨から円に両替する際のレートは円が割高になります。
外為市場は地球をぐるり24時間、取引できる(月〜金)
外国為替市場のもう一つの特徴は、月曜から金曜まで24時間いつでも取引ができることです。証券取引所ごとに取引時間が定まった株式市場との大きな違いです。外為市場の関係者は文字通り「1秒も」気が抜けません。
もちろん24時間といっても、同じ人がずっと働くわけではありません。日本時間の早朝にニュージーランドで取引が始まってから、時差にしたがって日本、欧州、米国と、それぞれの国の金融機関を中心にリレーしながら取引が続きます。
どこが中心的に取引をする時間帯かによって「東京市場」や「ニューヨーク市場」などと呼ばれますが、明確な開始・終了の時間はありません。
唯一ある休みは、土日です。土日は世界のほとんどの銀行が休みで、資金決済ができないためです。
一日の取引の傾向を見てみましょう。日本時間でみた場合、仲値が決まる10時前後を中心に輸出入企業や投資信託の取引が活発に行われます。15時ごろからはロンドン市場と重なり、欧米の投資家が取引をはじめることで相場付きが変わると言われます。
21時ごろからはロンドンに加えニューヨーク市場が重なり、1日のなかで最も取引量が活発な時間帯に突入します。外為市場への影響が大きい米国の経済指標の発表などもあるため、一番注目度の高い時間帯でもあります。
政府・日銀の「介入」は、直近ではニューヨーク市場の終わり際(5月2日)や東京市場が祝日で動いていない日(4月29日)など、取引量が少ない時間帯に入ることが目立ちます。考えられるのは、取引が活発でない時には投機的な動きによって極端な値動きになりやすく、為替介入はそれに対抗するためだということです。これに加え、通常の時間帯よりも同じ金額でより大きく相場を動かす力を得られるため、当局として効果を最大限に発揮する狙いがあるのではないか、とも言われています。
政府・日銀による為替介入のしくみは?
考えられるルートは①銀行間市場に直接介入する方法②銀行に売買注文を出して介入する方法――の2通りです。
まず①について。日銀も銀行なので、銀行間市場に直接参加できます。専用の電子端末などを使い、例えばドル売り・円買いの注文を銀行間市場に出せます。ただし、この場合は日銀の注文が不特定多数の金融機関に見えることになり、介入したという事実が公になりやすくなります。
②の場合、日銀は顧客の立場で銀行にドル売り・円買いなどの注文を出します。銀行は受けた注文を「日銀から」と言わずに銀行間市場でさばくため、実際に誰がどんな大きさの売買をしたのかがわかりづらくなります。つまり、介入をしたかどうかをすぐには公表しない、いわゆる「覆面介入」が容易になります。
円安・円高はどう決まる?
では具体的に、なぜ円安になるのかを考えましょう。日本は1973年から変動相場制を採用しているので、円を外貨に替えたい人が多ければ円安に、外貨を円に替えたい人が多ければ円高になるという、「綱引き」のイメージです。
誰が円を売るのでしょうか。代表的なのは輸入企業で、海外からの仕入れに対する支払いのためにドルなど外貨が必要となり、円を売ります。クラウドサービスなど、海外の大手ITプラットフォーマーに対する支払いも、円売りを伴います。最近では、NISAなどを通じた一般個人の海外株投資信託の買い付けも、円売り圧力として見逃せません。
逆に、円を買うのは輸出企業です。稼いだ外貨を、国内の従業員や配当、設備投資にあてるために円を買います。いわゆるインバウンド(訪日外国人)の消費も、円買いとしてはそれなりの規模になります。
投機筋とは
この綱引きの力学に勢いを付けるのがいわゆる投機筋です。投機筋とは、輸出入のように別の目的で為替を売買するのではなく、為替取引そのものから利益を得ようとする人たちを指します。ヘッジファンドのような比較的短期で利益を得ようとする投資専門会社のほか、銀行や保険会社など様々な金融機関が投資の手段として円相場を使います。個人のFX投資家も投機筋に含まれます。
2024年5月時点では、この円売りと円買いの綱引きのバランスが円安に傾いていると言えるでしょう。日本の輸出企業はグローバル展開をどんどん加速しており、以前に比べて海外のビジネスで稼いだ外貨を円に替えて日本に還流させたりせずに、現地での設備投資などに振り向けがちです。ITプラットフォーマーへの支払いも増加し続けています。加えて、投機筋が円安の流れに乗って利ざやを稼ぐ戦略を強めています。
まとめ
外為市場は、経済・政治をはじめ世界で起きるあらゆる出来事の影響を織り込んで変動すると言われます。決定要因としても、国際収支や金利差、人口動態など枚挙にいとまがありません。変動相場制である以上、最終的に登場人物の実際の売買がレートを決めます。登場人物が何を理由に円売り・円買いに動くのか。局面局面で売りと買いの綱引きの戦況はころころと変わり、それに応じて円相場は24時間、刻々と動いていきます。